2010年02月21日

「筒発」 について (6)

 筒発に関する 『別宮暖朗本』 のウソ、誤りはまだまだあります。 そして、ここまで来ると、全く何をか況やです。

 主砲は連装砲塔に装備されており、1門の砲身が飛び散ると、他の1門に当たり、砲身を曲げてしまうことから、2門とも使用不能になる。 (黄海海戦で) 日本の戦艦4隻のうち3隻で筒発が起き、6門が使用不能となった。 (p202) (p209) 
 (注) : 青字 ( ) 内は管理人が追加

 連装砲塔だと1門が破壊されると、切断された砲身が別の1門にもあたり、砲身を曲げてしまい、使い物にならなくさせる。 それが連装砲塔の欠陥である。 ところが三連装にすれば、もっと打撃は大きくなる。 第1次対戦終了まで、日・英・独は弩級戦艦に三連装砲塔を搭載することをあくまで拒絶した。 (p308) (p320) 

 ドイツがどのように筒発の秘密を知ったかは不明である。 ただ友邦オーストリア=ハンガリーが三連装砲塔を計画したとき 「理由はいえないが、やめた方がよい」 と説得につとめた、と言われる。 (p308−309) (p320) 

 筒発を含む砲身毀損というものは、砲熕武器を扱う軍ならどこの国であろうと直面する問題ですから、ドイツ云々などは実にいい加減ですが (しかも 「と言われる」 などの無責任な文言で)、はさておき、

 「別の1門にもあたり、砲身を曲げてしまい、使い物にならなくさせる」 という実例がどこにあるのでしょうか? 一つもありませんが。

 例えば、「三笠」 では、黄海海戦時の後部右砲毀損時も、左砲砲尾部に損傷を受け、また砲塔旋回不能となったたものの、乗員修理により翌日には復旧し左砲射撃は可能となっております。 しかも、その左砲の損傷は右砲の破片によるものではありませんし、ましてや “砲身が曲がった” わけでもありません。

 したがって、黄海海戦では戦艦4隻中のうち、「三笠」 が一時的に後部両砲が射撃不能となったのを除くと、実質的に左右両砲が使用不能となったものは 「朝日」 の後部砲塔のみです。

 しかも、この 「朝日」 にしても、この著者が言うように片方の筒発によって左右両砲が使用不能になったのではなく、後部左砲は20発目、右砲は26発目で、それぞれ別個に筒発を起こしたものです。

 また、日本海海戦時の 「三笠」 の前部右砲筒発時は、左砲及び砲塔旋回装置に被害はなく、右砲筒発発生から (砲塔天蓋の復旧作業をして) 36分後には左砲による射撃を再開しています。

 これを要するに、この著者が言う筒発による 「それが連装砲塔の欠陥である」 などは、全くありません。 こんなことは一度でもキチンと確認さえすればすぐ判ることです。

 しかも、三連装を採用しない理由が筒発? この著者、本気でそんなことを思っているのでしょうか?

 連装と三連装の問題は、砲塔・装填機構の設計、弾薬庫を含むスペースと重量の問題、船体防禦との関係、戦闘被害時の問題、そして既にご説明した砲塔動力による斉発の問題、更に砲術思想など、各国海軍それぞれの事情に応じて総合判断したことであることは、皆さんよくご存じのとおりです。

 筒発など何の関係もないことは申し上げるまでもありません。 お粗末に過ぎます。

 すべての原因が究明されたわけではなく、現在の戦車砲などは、筒発を避けるため、滑腔砲 (かっこうほう) といわれるライフルを切らないタイプが主流となっている。
 (p115−116) (p376) 

 筒発の原因が 「すべて究明されたわけではない」 どころではなくて、個々の事象の原因はほとんどの場合究明しえない、ものであったことは既にご説明してきたところです。

 しかもこの著者はその原因については “砲身の灼熱” 以外は全く触れていないにも関わらず、です。

 その上で、戦車砲のスムース・ボアが筒発防止のため? 旋条と筒発との因果関係を一言も説明することなく、なぜその防止がスムース・ボアに繋がるのか?

 しかも、APFSDS弾などはそのために開発されたとでもいうのでしょうか?

 もうここまでくると開いた口が塞がりません。 “知らない、判らない、調べていない” を棚に上げて、好き勝手な空想・妄想を書きつづるにも程があるかと。


 以上6回に分けてご説明してきましたが、この筒発関係だけで 『別宮暖朗本』 は一体何ページをウソと誤りで埋め尽くしていることか。
(この項終わり)

posted by 桜と錨 at 12:50| Comment(6) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
御説興味深く読ませていただきました。

件の御仁の文章について、ささやかながら同様の感想を抱いたことがあったのを思い出します。

実は数年前、氏のサイト『第一次世界大戦』で、オランダ軽巡デ・ロイテルが実は巡洋戦艦だ、という氏の主張に同サイトの掲示板上で突っ込みを入れたことがありまして・・・・・・

まあ、氏がそう主張する理由を要約すると
・ABDA艦隊の旗艦に、重巡であるヒューストンを差し置いて軽巡ごときが旗艦になるはずがない、
・また、デ・ロイテルの艦橋は艦体の規模に比して著しく高いから、戦艦級の主砲を積んでいるに違いない、
というのが氏の主な論拠でした。おそらくは、1939年計画巡洋戦艦(計画だけは実在した、独シャルンホルスト級とほぼ同型のフネ)だろうとのこと。
で、更に問題なのは、これを巡洋戦艦に関するWebページの注釈ではなく、史実と誤解しかねない形で本文として書いていたことでして……

小生は
・事前に合同訓練もしていない多国籍艦隊を指揮するのだから、自国艦隊の最有力艦に旗艦を置くのは当然、
・フランスやドイツなどで、遠距離砲戦を考慮して高い艦橋をもうけた軽巡の例がある、
・蘭印に独ドイチュラント級に匹敵するかそれを上回る艦が配備されたとなれば、それが現在まで知られていなかったなどということは考えにくく、よほど巧妙な機密保持に成功したと考えられるが、そのような有力艦が当時の蘭印に配備されたとはこのサイト以外では未だかつて聞いたことがない、
・オランダに戦艦級艦砲(8インチオーバー)の製造実績はなく、英独仏伊瑞のいずれかに外注する必要があるから、発注先にも機密保持を要請せねばならない、
・蘭印には当時重巡より大型な艦を整備できるドックがなく、秘密基地(爆)でも作らない限りシンガポールなりセイロンなりの英海軍施設を借用する必要があり、「他国に整備を依頼する必要がある秘密兵器」というわけのわからん存在になる、
などと突っ込んだ次第(記憶モードなので細部に相違があるかもしれませんが)。

で、「カタログデータを信用するとはおめでたい兵器オタク」「ヨーロッパ諸国の外交的協調も弁えない愚か者」「最強艦に旗艦をおく、当然の兵理も知らない無学者」
扱いされたのはまあ、今なら苦笑できます(当時はまぢに脳の血管が切れかけたような気がしたものですが……御大に捨て台詞たたきつけて以来問題のサイトを見ていないので、件のサイトはどうなっているのやら)。

史料を広く渉猟していることだけは認めますが、自らの歴史解釈に絶大なる自信を抱き、ご自分の見解に異を唱えんとする他人の意見に敬意を払えない御仁と見ました。ですから、ほとんど1行ごとに突っ込みが入るような文章を書いても、ご本人は「自分しか到達し得なかった真実を暴いた」とでもお思いなのではないかと。

以上、長文にて失礼しました。
Posted by 不来庵 at 2010年02月23日 21:25
 不来庵さん、こん**は。

 直接関わられたんですね。 それは大変な事でしたでしょう。

 「デ・ロイテル」 について、『別宮暖朗本』 の著者が何を言っているのか知りませんでしたが、それにしてもまあ “巡洋戦艦” とは (^_^;

 当該議論が何年頃か判りませんが、「デ・ロイテル」 は確か2002年に沈んでいる姿が確認され、潜水調査が行われています。 もちろん主砲も。 その時の写真なども公開されています。

 そんな馬鹿げたことを誇らしく吹き上げるなら、自分の目で見てからにしてもらいたいものですね。

 もっとも、件の著者はまさに “講釈師・・・・” を地で行く人物で、その誇らしげに語る総てについて何一つ根拠を明らかにしたことは無いんですよね。 引用しているのは戦記物や伝記などばかりで。

 しかも全くの素人レベル以下のことを平気でブチ揚げ、堂々と出版する。

 史料などにチマチマ当たらなくても、本さえ沢山読めばそれだけで専門知識が得られ、自分の理解力を以てすれば堂々と専門家と渡り合える。 その上で、“権威” というものを総て否定することが、自分のステータスであり有能さの証明になると思っている様ですね。 それが如何にお粗末な珍説であろうとも。

 ですから、主張するだけ主張して、あとは一切知らん顔なんでしょう。 自分の無知とウソがばれますから。

 私は幸いにして、例の 『別宮暖朗本』 をネタにして話題を選定し、具体的な根拠史料を呈示して説明することによって、海軍や砲術などについて一般の人々に真実が伝えられれば良いだけですから、直接件の著者に関わるつもりはありませんし、その必要もありません。

 まあ、ウィキを始めとして、一般の人々も少しずつは彼の異常さに気が付き始めてはいるようですが・・・・

 それにしても、口の上手さというのは、才能であり特技ですね。 私も感心します。 彼についてはその点だけは認めなければと (^_^)
Posted by 桜と錨 at 2010年02月26日 17:38
どうもお返事ありがとうございます。

件の論争は確か、2003年だったかと記憶しております。まあ、何というか、何ら実りのない不毛な出来事でしたので、こちらのブログを見るまで記憶の底に沈めていた故、何かと曖昧な点はご容赦のほど(汗)

また、一件以来、久方ぶりに件のサイトへ行ってみました。とりあえず当該項目は『デ・ロイテルの謎』なる独立ページとして、仮説扱いになっていましたが、未だに巡洋戦艦説を放棄していない模様(単に関心がないので更新せずに放置されているだけかもですが)。
……「せめて、仮説なら仮説と明示しろ」という小生の当時の突っ込みだけはどうやら聞き入れられた格好ですが、多分まあ、他にも件の御仁に対して同様の忠言を入れた掲示板常連さんがいたのではないかと勝手に推測しております。

なお、同サイトの外国地名・人名に関するカタカナ表記には、しばしば一般的な表記ではないものが見られます(フォン・デア・タン=フォンダータン、フィッシャー=フィシャー、ブレストリウスク=ブレスト・リトフスクなど)。恐らく、外国地名・人名事典や百科事典を参照し、可能な限り国内で現在一般的な表記に統一する、という意識が希薄ではないかと思われます。

……この点、物書きとしてはかなり致命的……他者と同一の言語空間に合わせる気がそもそもないことを暗示しているように思われます。
「ああ言えば上祐」な人種であることとあわせ、直接相手したい人種でないのはおっしゃるとおりですね。
Posted by 不来庵 at 2010年03月01日 12:29
 ワタシも件の方のHPに行ってみましたが・・・
 トップページに
「訂正大歓迎。もし記載に事実相違があれば是非ご指摘ください。
また訂正にかぎらず意見なんでもおまちします。」とあって大笑いw
 まぁ、指摘は歓迎するが訂正はしない、という事なんですかね(苦笑)
Posted by みほり at 2010年03月07日 16:28
不来庵さん
私も元常連でして
長く粘った方だと思うのですが空母の話で力尽きました

みほりさん
下手に指摘すると火病を起こして大変な事になりますよ
論点とは関係がない食べ物のことで侮辱されたりします
(クラウツ ライミーと同じ使い方です)

桜と錨さん
いきなり割り込みましてすみません
元常連としては直接関わらない方が良いと思うばかりです
ただ口はあまり上手くないと思いますよ
掲示板では常連支持者の援護の方が上手いと思います

突然入り込みまして申し訳ありませんでした
Posted by 石頭 at 2010年03月24日 05:37
 石頭さん、こん**は。

 書き込みありがとうございます。 勿論、私としては関わるつもりは全くありません。 と言うより、『別宮暖朗本』 の著者そのものには全く関心がありませんし、どうでもよいことだからです。

 私にとっての問題は、この 『別宮暖朗本』 の記述を信じてしまう素人さん達が未だにおり、果てはウィキなどで当該本を持ち出す人が出てくることなのです。

 したがって、本ブログでの記事掲載の目的は、歴史の事実を一つ一つ具体的にご説明して、ご来訪される皆さんに、当該本が如何にウソ、誤りに満ちたものであるかを知っていただきたいと言うことです。
Posted by 桜と錨 at 2010年03月24日 21:35
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/35468382
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック