2010年02月16日

「筒発」 について (3)

 さて、これまでご説明してきたことに基づき、例によって 『別宮暖朗本』 の記述を検証してみることにしましょう。

 弾丸が砲身の中で爆発する現象。 第1次大戦直前に信管誤作動防止装置が発明されるまで、連続発射を行うと必ず発生した。 原因は複数あるが、多いケースは砲身が灼熱し、弾丸がそこを通過するとき信管が作動するものだ。 (p115) (p376) 

 (黄海海戦第2期の) 砲戦は東郷が同航戦からT字をきりおわり、やり過ごすまで1時間20分以上つづいた。 このような長期戦になると、12インチ砲は筒発を起こす。
 (p201) (p209) 
 (注) : 青地 ( ) 内は管理人が追加

 弾丸がそこを通過するとき信管が作動してしまうのだ。 だが、第1次大戦の直前に信管誤作動防止装置が発明されるまで、砲身灼熱による筒発を防ぐ手段はなかった。
 (p307−308) (p319) 

 “必ず発生” するわけがなく、発生しない砲の方が多いことはご説明するまでもないでしょう。 実際、黄海海戦でも日本海海戦でも筒発を起こさなかった砲の方が遥かに多いわけですから。

 しかも、もし高温砲が原因で筒発が “必ず発生” すると言うならば、筒発を起こさなかった大多数の砲のことは、どのようにこの著者は説明するのでしょうか?

 まあここは “発生する率が高くなる” という意味なんだと、善意に解釈することにしましょう。

 しかし、それはいいとしても、「信管誤作動防止装置」 なるものがどういものか全く説明されておらず意味不明ですし、それと “砲身の灼熱” と “信管の作動” とがどういう関係にあるのか全く説明されていません。

 そして、信管の一般的構造の概略をご存じの方はお判りのように、信管の早発防止という安全機構は、この著者の言う “砲身の灼熱” によるものとは全く関係がありません。 こんなことは常識の話しです。

 例えば、本家HPの 『砲術講堂』 の中で旧海軍の典型的な着発信管である 「一三式信管」 を解説しています。


 これをご覧いただけば、一目瞭然かと。

 信管の基本的なことについてさえ、知らない、判らない、調べていない、で書いていることが明らかでしょう。

 そもそも 「弾丸がそこを通過するとき」 の “そこ” とはどこのことを言っているのでしょうか?

 砲身で最も熱くなるのは、薬室とそれに続く弾室ですから、もしここのことを指すならば、筒発は尾栓が閉まる前の装填時に発生することになりますが?

 しかも 「高温砲」 が筒発の原因となる可能性は極めて低いことはご説明したとおりですから、この著者の言うことは全くの誤りです。


 普通、筒発は1門で起きる。 例外は、日本海海戦の初日午後5時過ぎ、日進の前部砲塔で起きた両門斉射時の同一タイミングでの筒発である。
 (p308) (p319−320) 

 この 「日進」 の例については、既にご説明したとおりです。

 普通の (これも変な言い方ですが) 筒発の原因だけでは考えられず、砲身不良も含めて複数の要因を考える必要がある、極めて特殊なケースと言えます。

 少なくともこの著者の言う “砲身の灼熱” ではあり得ないことは、もうお判りいただけるでしょう。

 そして 「両門斉射」 の 「同一タイミング」 など、一体どこに記録があるのでしょうか? 旧海軍はそんなことは一言も言っていません。 早い話が、「日進」 の戦闘詳報の確認 “すら” しないで空想・妄想を書いている、ということです。

 もっともこの著者なら、旧海軍は筒発のことを秘密にしていたので 「日進」 の戦闘詳報に事実のゴマカシがある、と言い出しかねません。 実際に他の箇所ではそう言うことを平気で主張していますので・・・・ ( 「203地点ニ敵ノ第二艦隊見ユ」 (後編) を参照して下さい。)
(この項続く)
posted by 桜と錨 at 13:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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