2009年11月24日

艦砲射撃の基礎 − 連装砲の発射法 (3)

 本項では連装砲塔砲の打ち方、発射の仕方についてお話しするのですが、「打方」 と言いますと射法でのことと誤解を生ずるおそれがありますので、タイトルは敢えて 「発射法」 としています。

 つまり、連装砲において左右2門の砲は、片方ずつ撃つのか、それとも両砲同時 (一斉) に撃つのか、ということです。

( 当然ながら日露戦争当時のことが中心ですので、話しの都合上、3連装については省略します。)

 それでは、旧海軍においてはこの2つの発射法をどのように使い分けていたのでしょうか? これについて、その変遷についてそれぞれの呼び名と共にご説明していきたいと思います。

 既にお話ししましたように、戦艦に搭載する12インチ連装砲塔や装甲巡洋艦の8インチ連装砲塔の操作法について規定されたのは、明治36年に全面改定された 『海軍艦砲操式』 からです。

 その明治36年版では、連装砲塔の発射法は 「一斉打方」 「単発打方」 「独立打方」 の3種類が規定されています。

 「一斉打方」 は両砲一斉に、「単発打方」 は左右砲交互に、何れも 「砲塔長」 が照準し引金を引くことにより発砲するものです。

 また 「独立打方」 は、「砲塔長」 及び 「砲塔次長」 がそれぞれ右砲及び左砲をそれぞれ砲の準備と照準が出来次第、他砲に構うことなく独立して発射していくものです。

 状況によっては、この 「独立打方」 の機器設定を使い、「砲台長」 の号令によって左右砲を 「砲塔長」 「砲塔次長」 がそれぞれ照準して引金を引き “ほぼ同時に” 発砲する応用的な方法もありました。


 そして 「砲台長」 は、艦長 (砲術長) から命ぜられる 「緩射」 「並射 (常射) 」 「急射」 の 「打方」 に応じて、上記の3つの発射法から適宜選択し、砲手に令して砲を撃たせることになります。

 大体皆さんご想像が付くとおもいますが、通常ですと次のとおりです。

    「緩射」       : 「単発打方」 又は 「一斉打方」
    「並射 (常射) 」 : 「単発打方」
    「急射」       : 「独立打方」 又は 「単発打方」

 因みに号令は、それぞれ 「徐 (しずか) に打て」 「並に打て」 「急ぎ打て」 です。

 そしてこれに加えて砲台長が下令する発射法の号令は 「一斉打方」 「単発打方、右(左)から始め」 「独立打方」 となります。

 例えば、「並に打て、単発打方、右から始め」 などのようにです。

 それでは、通常の砲戦時に使用する 「並射」 の時に何故 「一斉打方」 を使わないか?

 実はこれは当時の砲塔砲の “動力の問題” なんです。 旧海軍では昭和初期まで続くこの問題のことを、意外と知らない人が多いですね。

 当時の砲塔砲の構造を考えていただければお判りのように、砲の旋回・俯仰、揚弾・装填及び発砲時の駐退復座には総て水圧が用いられています。

 この水圧機の能力の問題で、2門同時に発砲するとその駐退・復座のために水圧が落ちてしまい、これが回復するのに時間がかかるため、旋回・俯仰や揚弾・装填がスムースに出来なく遅くなり、このため 発射速度が極端に遅くなって しまうのです。

 したがって、2門同時の斉射の利点は理解していたものの、この発砲速度の問題から、「一斉打方」 は余程の容易な射撃目標 (例えば、近距離で停止しており、かつ相手からの反撃がほとんど無い、等々) に対して充分な照準が実施できる場合のみに限定されていました。

 例えば、明治35年版の海軍兵学校の 『砲術教科書』 では次のように記述されています。

  「 砲塔砲は砲火の主力にして且つ装填に時間を要すること大なるが故に軽して之を発射することなく一斉射撃の如きは命中確実なる場合に非ざれば 決して之を行うべからず

   (注) : 太字 は管理人による

 なお、ここでいう 「一斉射撃」 とは先の明治36年版 『海軍艦砲操式』 でいう 「一斉打方」 のことです。 そして、“命中確実なる” というものがどういう場合なのかは、お判りかと。

 日露戦争中、旧海軍はこの明治36年版 『海軍艦砲操式』 の規定に従って艦砲の操作を行ったのです。 当然、訓練でも実戦でも。 もちろん、黄海海戦でも日本海海戦でも。
(この項続く)

posted by 桜と錨 at 13:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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