2009年11月14日

連繋機雷 (一号機雷) について (前編)

  『別宮暖朗本』 の誤りについて、砲術関係については既にその基礎の解説に合わせて順次ご説明しているところであり、またその他についてもその一例として先日 「対馬か津軽か」 と題しご紹介したところです。

 これからは、水雷関係についてもこの著書の誤りについてご説明して行きたいと思います。 もちろん、不定期の “気まま” に。

 旧海軍の水雷史については、幸いにしてその創始より昭和年代初めまでについて 『帝国海軍水雷術史』 という素晴らしい公式史料が残されており、本家HPで順次公開しているところです。 そして、魚雷及び機雷そのものの発達史については既に大部分をUPしてありますので、まだ未見の方はそちらをご参照下さい。

 本来はこの公式史料をご覧いただけばそれで充分なのでしょうが、初心者の方々がこれを読みこなすには多少の知識も必要ですので、ここでは他の史料なども加えてもう少し解りやすくご説明することにします。

 そこで、まずその第1弾として、当該本の “トンデモ” 振りの最高傑作の一つである 「連繋機雷」 についてです。

 その連繋機雷とは何なのか?  『別宮暖朗本』 の記述です。

 (小田喜代蔵海軍中佐は) 一号機雷という特殊な浮標機雷をそのために発明していた。 一号機雷は全重量123キロ、炸薬量45キロ、深度索長6メートルである。 浮標機雷とは「浮き」の下に小型機雷を吊したものである。 (p188)
  ( )内は管理人の付記

 小田は、ヒョロヒョロ魚雷による駆逐隊の戦果不振を一号機雷でもって打開することを提議した。 方法は、「二隻の駆逐艦が、700〜900メートル幅でロープを引き、敵艦の前方から突進する。 ロープの中央には2個の一号機雷をつなげる。 そして、その2個の中央を敵艦の艦首に激突させる。 駆逐艦はその瞬間にロープを放す。 敵艦は惰性で前に進み、機雷は敵艦の両舷側で炸裂する」 というものである。 (p188−189)

betsumiya_p188_s.jpg
( p188 )

 (戦艦 「ナワリン」 撃沈は) 二つの駆逐艦でロープを張り、機雷二個をつなげ、そのまま前方に突撃する連繋機雷攻撃法が見事に成功した例だろう。(188ページ参照)
(p323)
  ( )内は管理人の付記

 笑えますねぇ。 一体どこからこんな “空想” “妄想” が生まれたのか。 トンチンカンなイラストを付してまで。

 そもそも、その2隻の駆逐艦に幅700〜900メートルで、一体何ノットで曳かせるつもりなんでしょう? 余程の低速でない限り、機雷は引きずられて海面に浮いてしまい、波に叩かれることになりますが?

 そんなことはちょっとでも “海のこと” が解っていれば常識なんですけどねぇ。 それとも一定深度を走るように機雷にフィンが付いていたとでも?

 またもし、敵艦の350〜450メートル脇を数ノットの微弱な速力で曳航するんだなどと言うのなら、それこそその駆逐艦は沈めてくれと言わんばかりの、恰好の “射撃標的” なんですけど (^_^;

 ついでに、「一号機雷」 って何でしょう? この日露戦争当時、当該連繋機雷はそのような名称ではありませんが。

 とまあ、その様なツッコミはともかく

 既に本家HPの 『帝国海軍水雷術史』 でも公開しましたように、「連繋機雷」 (当初は連合艦隊によって 「連繋水雷」 と名付けられました) は 浮漂 機雷4個をマニラ索で繋いだもので、これを搭載艦艇から敵艦艇前程の海面に “投下して敷設” するものです。 この著者の空想・妄想の産物とは全く異なります。

 4個を長さ100メートルの連繋索で繋ぎますので、全長300メートルで1組とし、そして状況によっては2組を短い連結索で繋いで、機雷8個、全長600メートル (実際には連結索が約20メートルあります) として使うことも考慮されています。

 また、日本海海戦時には旧ロシア駆逐艦の 「暁」 にこれを8組搭載し、機雷32個、全長約2500メートルとして敷設することを計画しました。

 しかも、明治37年10月に考案された当初のものは、「浮標機雷」 ではありませんで、機雷本体が海面上に浮いている 「浮遊機雷」 であり、しかも既存の球形機雷の缶体を利用したもので 「小型」 でもありません。

renkei_mine_01_s.jpg

(そもそも、この著者は 「浮遊機雷」 と 「浮流機雷」、「浮漂機雷」 と 「浮標機雷」の区別さえもついていないと考えられますが・・・・ これについてはこの後の一般機雷の項で。)

 そしてこの当初のものを製造して駆逐艦に実戦配備しつつ、38年1月、海軍大佐中村静嘉を委員長とする連繋機雷試験委員が指定され、これの改良実験が行われます。 ( 先の小田喜代蔵もその委員の一人 )

 当初のものの実戦配備については、例えば10月24日付けの 「連合艦隊訓令」 (聯隊機密第1217号) を以て麾下全般に、そして具体的な搭載については 「同機密第1208号」 (10月20日付) などによって出されています。 この時に本機雷を正式に 「連繋水雷」 と呼ぶこととされています。

 そして改良実験の結果、38年2月に出来上がったのが、その後の6月に制式兵器採用されることになる改良連繋機雷です。 ( この兵器採用時に、その内容秘匿のために 「特種水雷」 という名称に変わりました。)

 この改良型になって、機雷を海面下で爆発させるための 「浮標機雷」 になり、かつ連繋索が敵艦艦首に引っかかって機雷が舷側に引き寄せられた時に、水中で適切な姿勢と運動で艦体に衝突するような缶体形状と浮標への吊下方法になりました。 本家HPの 『帝国海軍水雷術史』 で公開した図がこれです。

3-131_fig_s.jpg

 別の史料からもう少し正確な形状を示しますと、

renkei_mine_02_s.jpg     renkei_mine_flt_01_s.jpg
( 左 : 改良連繋機雷の缶体          右 : 同浮標 )

 この改良型は直ちに製造、実戦配備に入り、38年4月には 「連繋機雷使用心得」 (聯隊機密第270号) として連合艦隊全体に知らしめるとともに、これを用いた戦術が連合艦隊戦策の改定により採り入れられます。

 日本海海戦前に、この連繋機雷は先ず手始めに第三、第四駆逐隊の全艦に2組ずつ、及び一等水雷艇隊の各隊2〜3隻に各1組ずつ搭載され、その後製造・供給されるにつれてほとんどの駆逐艦及び一等水雷艇に搭載されたとされています。 また、実連繋機雷を搭載しない艦艇には、欺瞞用として 「擬水雷」 まで作製・搭載し、実機雷との同時・連係使用まで考慮していました。

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 そして、「浅間」、「暁」 を含む第一駆逐隊、及び第九艇隊による 「臨時奇襲隊」 を編成し、バルチック艦隊に対する昼間連繋機雷攻撃を計画しました。 (残念ながら、実際にはこれは荒天のためもあって中止となりましたが。)

 この改良連繋機雷の実用化により、急遽日本海海戦の直前になって改定された 「連合艦隊戦策」 (聯隊機密第259号の3) では、次のような連繋機雷を用いた戦術が例示されています。

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( 図左上で、奇襲隊により敵艦隊の前程に取り囲むように連繋機雷を敷設します )

 機雷をロープでつないでも、海に落とせばグニャグニャになってしまいコントロール不可能である。 そのうえ予定戦場に機雷を落とすと味方被害の可能性がある。 こういった発想にもとづくものは、初めから武器にならない。 (P289)

 この著者が勘違いしている 「連繋機雷」 という立派な武器になったんですが?

 そして、連繋機雷が想定した作動時間の範囲で、海の上でどうして “グニャグニャ” になるのでしょう? 海流の強い津軽海峡においてさえ実験の上で使用を計画したのに。 想像だけでものを言っており、海の上の実際のことは何も理解できていないことがよく解ります。 (連繋機雷による津軽海峡防禦については、後編でご説明します。)

 加えて、敷設する艦艇自身及び味方艦艇、そして中立船舶に被害を及ぼさないように、「隔時器」 というものを組み込み、敷設後一定時間 (当初のものでは15分) してから作働状態になり、そして触雷起爆しなければ一定時間 (同じく当初のものでは、1時間ないし1時間半) 後に自動的に爆沈するように作られていました。

 こんなことさえ調べていないのでしょうか?

 機雷をまくという海軍戦術は、どこの国の海軍にもない。 機雷とは径0.74メートル、400キロに達する大きなものであって、それを浮流させたならば簡単に発見されてしまう。 それゆえ海底の重しからワイヤーを伸ばして沈置する。 そしてコントロールできるものが魚雷なのであって、機雷まきが戦術になるのであれば、魚雷はいらない。
(p289)

 何を寝ぼけたことを、と思います。 先にも書きました 「浮遊機雷」 と 「浮流機雷」 との区別さえ判っていないからなんでしょうね。

(注) : 本項で引用した各史料は、総て防衛研究所図書館史料室が保有・保管するものからです。 なお、赤線は説明の都合上管理人が付けたものです。


(この項続く)
posted by 桜と錨 at 21:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 海軍のこと
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