2009年10月05日

高仰角射撃では砲弾は尻から落ちる?(補足)

 少し補足させていただきます。

1.刊行物について

 この旋転する砲弾の空中姿勢の問題については、実は簡潔明瞭、かつ判りやすくその全容が説明されたものは、私は今日まで見たことがありません。

 もちろん、私が現役時代に習ってきた弾道学に関するテキスト類にもキチンと書かれているものはありませんでした。

 有名な古典的名著であるシュゴー(M.G.Sugot)の 『理論砲外弾道学』 にしても、弾軸の運動については弾道解析に関連して詳しいですが、この姿勢の問題は明確ではありません。

 また、日本語で比較的簡単に手に入るものとしての 『火器弾薬技術ハンドブック 改訂版』 (弾道学研究会編 防衛技術協会刊 平成15年) にしても、それ以前の平成8年初版に比べるとこの関係の解説が大幅に増えたと言っても、それでもまだこの問題を適確・適切に説明しきれているとはとても言えません。

 このハンドブック改訂版では、砲弾の姿勢の問題について 「追従性」 (Tractability, Trailing) なる用語をもってして、次のように説明しています。

  追従性の発生メカニズムは本章6.1.2項で説明したジャイロ効果であり、その内容 も偏流の発生メカニズムと類似している。 ここでは旋動安定弾について説明する。

 (1) 偏流と同じ理由で静止ヨーが発生する。

 (2) 静止ヨーによる転倒モーメントが下向きに働くため、再びジャイロ効果によって飛翔姿勢は下を向く。


 この解説以下の数式による記述や、関連する静止ヨーの記述を併せて読んだとしても、恐らくすんなりと “なるほど〜” と思う人はまずいないのではないでしょうか。 先に私が書いたものと同じことを言っているとは思うのですが?

 もっとも、この 「追従性」 という用語でこの問題を説明したものは、私は他には知りません。 ( もちろん専門の論文などならあるのかもしれませんが、たったこれだけのことを理解するのにそんなものまで読む必要があるのか? と言うのが正直なところですので。)


2.すりこぎ運動との関連について

 先の説明では問題を簡単にするためにわざと省略しました、弾道の章動 (Nutation) と才差 (Precession) を原因とする弾道軸の複円運動 (Epicycle Motion)、所謂 「すりこぎ運動」 と関連し、

“弾道線に沿ってぐるぐる首を振りながら飛んでいく”

 という解釈の仕方がでてきました。 しかしながら、この “弾道線に沿って” という表現は微妙なところです。

 つまり、これが “弾道切線の周りを” となると明らかに違うのですが、“弾道切線の近くを” の意味ですと、実際の弾軸の複雑な運動としては正しいかと考えます。

 実際の右旋転弾の一例として、弾軸は下図のように運動するとされています。 (もちろん、これはあくまでも一つの例に過ぎず、典型的かつ一般的とは言えないないことには要注意ですが。)

mov_axis_blt_01_s.jpg
( 前掲ハンドブック改訂版より )

 この図の座標の中心は、移動 (飛翔する) する弾の重心点を意味しているのではなく、単にこの図の作図上の出発点です。

 そして全体として、この弾軸運動の中心が図の 「β」 で示されるように、右にずれるのはお判りいただけるかと。

 では、弾道切線に対して弾軸は実際にどのように動くのか? ハッキリ申し上げて判りません。 どこにもキチンとしたものが呈示されていませんので。

 即ちこれは、砲口を弾が離れる時点で既にその複雑な運動が始まっておりますので、それを単純に示すことは不可能に近いことだから、と言えるでしょう。

 だからこそ、その複雑さを排除して、最も明確な点、即ち 「なぜそうなるか?」 だけを採り上げれば先のようになり、これで充分説明がつくと考えております。

 それにあまりに特種なケースを想定してあの場合、この場合と言っても、本題からするとあまり意味はないかと思っています。


3.重心と抵心の位置について

 先に、通常の旋転砲弾では重心は空気抵抗の抵心より前には無い、即ち本問題において “風見鶏” のようには決してならないとご説明しました。

 ご参考までに、旧海軍の砲弾から実際のデータを幾つか拾ってご紹介します。

弾     種全   長弾底よりの
重心位置
弾底よりの
形心位置
 40糎    五号徹甲弾146.25糎57.2糎61.5糎
 U号20糎 九一式徹甲弾 90.62糎34.2糎37.2糎
 15糎    四号通常弾 57.17糎20.7糎23.7糎
 12糎    二号通常弾 42.08糎15.9糎18.1糎
 8糎     三号通常弾 26.48糎10.4糎 11.5糎

 「形心」 とは 「形状中心」 のことです。 本項において問題とする、砲弾の斜め前からする空気抵抗の抵心が、この形心とほぼ同位置になることは明らかでしょう。

 旋条砲の砲弾が、空気抵抗を小さくするための尖頭長軸弾であり、したがってこれによる弾軸転倒を防止するための旋条であることを考えるならば、当然の帰結ではありますが。
posted by 桜と錨 at 12:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/32682829
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック