2009年09月26日

艦砲射撃の基礎 − 「測的」 について (続)

ここで賢明な皆さんは思われることでしょう。

「 それなら、射撃のためにわざわざ相対運動から絶対運動を求めなくとも、最初の相対運動で得られた “単位時間当たりの距離変化率と方位変化率” で射撃計算はできるのでは?」 と。

 実は、そうなのです。

( この相対運動の測的による “単位時間当たりの距離変化率と方位変化率” を使った射撃計算の方法については、また後でご説明します。)

 しかしまたその一方で、そうでもないとも言えますし、それではダメということにもなります。

 なぜそうなるかと言いますと、もう一度絶対運動の作図を見て下さい。

relative_01_s.jpg

 お判りいただけるように、測的で前提としたお互いの艦が “一定の針路速力で直進する” としても、時間の経過と共に、照準線に対する距離の変化率 (=変距率) (Yo+Yt 対 Yo1+Yt1) 及び照準方位の変化率 (=変角率) (Xo+Xt 対 Xo1+Xt1) が変わってくるからです。

 これは自艦と的艦との対勢により、そして射距離が長くなり、また自他の速力が早くなればなるほど、これら時々刻々と変化するそれらの値を使わなければ (使えなければ)、正確な射撃計算はできないということになります。

( 即ち、必然的に、日本海海戦初頭のいわゆる “東郷ターン” の場面では、日本側の回頭中は “日・露双方にとって” この 「相対運動」 の連続した大きな動きとなり、変距率や変角率が一定値として求められずに時々刻々変化しますので、この間 “正確な射撃計算は不可能” であるということは、簡単にお判りいただけると思います。 加えて、先にお話しした射撃に必須の 「照準」 そのものが非常に難しいと言うことも。)

 ここに、“連続した計測” と、“絶対運動を求める” という正確な 「測的」 の必要性が生じてきます。

 そして、当然のことながら、自艦も的艦も一定の針路、速力のままで海戦を行うわけはありませんで、変針、変速をします。 そのため、新たな変距率や変角率の迅速な算出が必要になります。

 実は、日露戦争直後までは、ここでいう意味の 「測的」 は行われていませんでした。 というより測距儀による測距しか実施していなかったのです。

( では当時、この測的に続く 「見越」 はどうやっていたのかは、また項を改めてご説明します。)

 だからこそ、日露戦争後になっての 「変距率盤」 「距離時計」 や 「測的盤」 の導入、そして 「方位盤」 「射撃盤」 の採用、そしてこれらを統合・総合する 「射撃指揮装置」 への発展があります。

 これを理解できていない者が艦砲射撃を論ずると、 『別宮暖朗本』 のような、「照準」 というものを全く無視したものになったり、あるいは

 距離の確認は、まず測距儀でおこなう。 ・・・・(中略)・・・・ それに基づいて試射をおこなうが、それ以降、測距儀は不要となる。 (p69)

 次に測距儀 (Rangefinder) であるが、これもそれほど重要ではない。 なぜならば斉射法の基本は弾着パターンの分析で距離を確認することであり、使うのは試射のときだけである。 (p75)

 ロシア海軍のように一弾試射により距離を確認する場合、第二斉射で弾着があっても、弾着パターンを分析することをしないから、計算上の距離と測定上の距離を精査する必要があり、測距はより必要である。 (p75)

 というような、寝ぼけた話しになったりするのです。

ついでに言えば、

日露両軍ともバーアンドシュトラウト社の1・5メートル測距儀を装備していた。 ただし、ロシア艦隊は一船あたり二台程度と少なかったようだ。 (p75)

 って、日本海軍では各艦一体何台が装備されたと思っているのでしょうねぇ、この著者は。

 しかも 「一船」 って (^_^;

(この項終わり)

posted by 桜と錨 at 19:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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