2009年09月24日

『飛翔雲』 第2章 日中戦争時代 −その16

著 : 高橋 定 (海兵61期)

 第2話 猪突猛進 (5)

 その晩の夜中の1時頃、ヒュルヒュルッ、ヒュルヒュルッという弾道音が、余韻嫋々として私達の宿舎の屋上を越え、暫くすると、ターンという弾着音が聞こえてきた。 私が目を醒ました時には、江草大尉は既に起きて、窓から飛行場の方向を注意深く見ていた。 小口径の擲弾砲の攻撃のようであった。 弾着が飛行場の方向であったので、窓辺から飛行場を眺めた。

 問題は飛行場の火災であるが、それに対して、私達は今、何の処置もできない状況にあった。 飛行機も爆弾も飛行場一杯に分散してあって、その間隔は僅か20米くらいしかない。 しかも、それを分散しようにも場所がない。 飛行場が狭いのだ。

 どんな小さい弾でも、直撃すれば飛行機は毀れるし、燃える可能性もある。 爆弾が誘爆することもある。 燃料は満載しているし、爆弾は、信管は装着してないが、翼の直下に転がしてあるのだ。 私はいらいらしながら、

 「 整備員達の中から精兵を選び、飛行場警備隊舎に行って待機します。 消火器が、警備隊舎に十分にありますから、それで何とか初期防火だけでもやってみましょう。」

と言った。

 隊長は暫く黙っていた。 敵の砲撃は、3分間に1発くらいの割合で続いていた。 小川正一中尉も黙って剣帯を着けて準備を始めた。 隊長は、

 「 よし行け。 整備員は10名でよかろう。 但し、飛行機に火が付かない限り、建物の外に出ることは絶対に許さんぞ。 飛行機よりも部下達に気をつけろ。 今夜は高橋行けっ!」

 私は、宿舎の前のトラックに出発準備を命じ、身支度を整えた。 隊長は、司令に了解を求め、小川中尉は、整備員宿舎に走って出動命令を伝えた。

 整備員達は既に起きて、作業服に着替えていたらしく、小川中尉の命令で、瞬く間に約70人が私の宿舎の前に集合した。 鉄冑が9つしかなかったので9人を選び、飛行場に向かってトラックを飛ばした。

 飛行場は真暗い闇であった。 雨が降りそうで、嫌な生暖かい風が吹いていた。 注意深く、警備隊舎の裏にトラックを止めて、先ず列線を偵察した。 午前1時半であった。

 警備員は興奮して、今迄の弾着状況を私に説明した。 14、5発の弾着があったが、幸いに10発は黄浦江の水中に落下し、4、5発は大学の内庭と列線に落ちたという。 弾着と同時に、僅かに火焔が見えるということであった。

 私が到着してからも、3発の弾着があったが、幸いにそれは黄浦江河岸に落ちた。 弾着間隔は3分乃至5分で、30粍程度の榴散弾のようであった。

 私は弾着間隔を計り、次の弾着まで、3百を数える間は安全だから、その間に初期防火をするよう手筈を決めて待機した。

 次の弾着は兵器庫の傍の列線であった。 火は僅かしか見えなかったが、警備員が一人走り出た。 「待て」 と言ったが、次の瞬間、整備員も3名駈け出した。

 私は残り6人を連れて、3人の後を迫った。 そして走りながら、「3百数えたら兵器庫に入れっ」 と言って、懐中電灯に照し出された爆弾を飛び越え、全速でランウェイを横切った。 ローハードルの疾走であった。 50を数える程もかからなかった。

 弾着点は、艦爆の尾翼から2米ばかり離れていたが、地面に直径30糎ばかりの穴があいて、艦爆の昇降蛇、尾翼は、弾片のためささら (「竹」冠に「洗」の字) のように破れていた。 幸いに火災にはならなかったので、私達は兵器庫の中に隠れた。
(続く)

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