HN 「ANACOSTIA」 さんから、米重巡洋艦 「Des Moines」 級の8インチ主砲による対空射撃についてご質問がありました ↓
が、長くなりますので項を改めてこちらで。
米重巡洋艦の8インチ砲で対空射撃をやろうとする場合の最も基本的な問題点は、ご存じのとおり、方位盤では測的・射撃計算はできない、という当たり前のことと、その測的・射撃計算をする従来の Mk 8 Rangekeeper では対空射撃はできないということです。
Mk 8 は元々が完全に平射 (水上射撃、対地射撃) 用に特化して設計されていますから、これを改造して対空射撃のための測的・弾道計算の機能を付加するようなことは不可能です。 ( 何故できないかという機構的な話しは、大変に長くなりますので省かせていただきます。)
そこで、既存の戦艦、巡洋艦では、副砲用の射撃指揮装置である Mk 37 Director と Mk 1A Computer とによる射撃諸元を主砲に送れるように改造し、これで主砲の対空射撃を実施するようにしました。
ところが、Mk 1A Computer は副砲たる5インチ砲の射撃 (弾道) 計算をするように機構が作られていますので、当然大きな計算誤差が生じます。 ( もちろん複数の砲種の弾道計算が出来るようにはなっていません。) したがって、この誤差分は、手動入力による 「補修正」 という形で、急場凌ぎをしました。 まあ、発射速度が遅いのでこれでも良かったのかと。
実際はお判りのように、まともな対空射撃ができるわけはありませんで、日本海軍のやり方とそう優劣があるわけではありません。
そこで、当該新重巡では、1つは、発射速度を大きくした半自動8インチ砲を新たに開発しました。 毎分10発という素晴らしいものです。 ( その替わりに、砲塔重量が非常に重くなり、それに伴って排水量も大幅に増えましたが。)
そしてもう一つは、測的・射撃計算用の Mk 8 Rangekeeper に替わり、Mk 1A Computer を改造してこの8インチ砲の対空射撃の射撃 (弾道) 計算ができるようにしたものを装備しました。
これに加えて、Mk 34 Director を改良して、対空用に照準器を替えたり、信号系統関係を新しいシステムに適合するようにした (これだけだって大変なんです) 新しい Mk 54 Director を搭載ましたが、ご指摘のようにこの方位盤は射撃用レーダーや測距儀などを含めて基本的には従来のMk 34 や Mk 38 と同じ平射用のものそのままです。
もちろん、副次的に、前後に装備されている副砲用の#1、#4の Mk 37 Director をこの8インチ用の Mk 1A Computer に繋いで主砲の射撃管制をすることも可能です。
しかし、この副砲用の方位盤を使う場合には、実際の対空戦闘の際に副砲用が足りなくなりますし (40ミリや3インチ砲用の方位盤を使う方法もありますが、能力的に格段に落ちます)、何より主砲の射撃指揮・管制の実施方法などの問題が出てきます。
そして更には、Mk 1A Computer は両用 (対空兼対水上) の測的・射撃盤ではありますが、実際には対空主、対水上・対地従、というより後者はオマケのようなものですから、今度は逆に8インチ砲で本来の水上射撃や対地射撃を行うには能力不足です。 当然、重巡洋艦の主砲がこれらにまともに使えないのでは何のためか、となります。
( 対空射撃を主とする Mk 1A で何故完全な水上射撃が出来ないのか、という理論的、機構的なご説明も長くなりますので省きます。)
ということで、折角の高性能8インチ砲をどの様に使おうとも、結局は中途半端なものになってしまった、と言うのが結論です。
言い替えれば、戦艦や巡洋艦の主砲で “本格的な” 対空射撃をやろうとするなら、少なくとも、対空射撃と対水上・対地射撃の両方が完全に出来る、全く新しい方位盤と測的・射撃盤が必要になります。
これを要するに、従来型の巡洋艦であれ、新しい 「Des Moines」 級であれ、“主砲方位盤に対空方位盤の機能が付与” されたわけではありません し、その 「Des Moines」 級にしても、結果的にその 主砲による対空射撃の機能・能力は “応急的” なもの に過ぎず、とても本格的なものとは言えない、ということです。
したがって、私が指摘したコメントを某サイトで書かれた方は、ご自分からお名前を出されているとおり、この方面でも知られた物書きさん、悪い言い方をすれば現にこれで飯を食っておられる方ですから、あのようなコメントに対して、ここの “気ままな” ブログでは最初にお断りしたように “茶化して” 書かせていただいた次第です。 (もう一人のコメントの方は、もう何と言いますか・・・・)
Mk 8 Rangekeeper や Mk 1A Computer の機能などの詳細については、また何れご紹介する機会もあろうと思います。
2009年09月03日
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その他の部分は、異論ありません。同意します。
>しかし、この副砲用の方位盤を使う場合には、実際の対空戦闘の際に副砲用が足りなくなりますし
Mk. 37 Directorは4基装備されており、2基を使用しても、もう2基が残っています。
それまでの巡洋艦が2基装備だったのですから、そこまで大きな問題にする必要があるのか、やや疑問があります。
4基の方位盤を別目標に振り分けなければならない状況ならば、もはや主砲による対空射撃は困難(砲塔旋回が追いつかない)なのではないかとも考えられますし。
>何より主砲の射撃指揮・管制の実施方法などの問題が出てきます。
これは具体的にどのような事なのでしょうか?
>そして更には、Mk 1A は両用 (対空兼対水上) の測的・射撃盤ではありますが、実際には対空主、対水上・対地従、というより後者はオマケのようなものですから、今度は逆に8インチ砲で本来の水上射撃や対地射撃を行うには能力不足です。 当然、重巡洋艦の主砲がこれらにまともに使えないのでは何のためか、となります。
>ということで、折角の高性能8インチ砲をどの様に使おうとも、結局は中途半端なものになってしまった、と言うのが結論です。
Des Moines級の場合、主砲用射撃盤として、Mk. 8 range keeperとFord Mk. 1 computerの両方を備えているので、対水上に限って言えば、従来より劣るという事は無いと思います。
>これを要するに、(中略)新しい 「Des Moines」 級であれ、“主砲方位盤に対空方位盤の機能が付与” されたわけではありません し、
Mk. 54 Directorに対空方位盤の機能が付与されていないとした場合、では、どうする事が対空方位盤としての機能を有する事になるのでしょうか?
>その 「Des Moines」 級にしても、結果的にその 主砲による対空射撃の機能・能力は “応急的” なもの に過ぎず、とても本格的なものとは言えない、ということです。
確かにその通りですが、回答者は別に"本格的"というように断言しているわけではないので、何もそこまでという気がします。
>それまでの巡洋艦が2基装備だったのですから、そこまで大きな問題にする必要があるのか、やや疑問があります。
それで十分なら、始めから “副砲用” に4基は要りません。 もし前後の Mk 37 を “主砲用” とし、 Mk 54 との二重装備というような “贅沢” なものであるなら、それらの方位盤とペアになる副砲用の Mk 1A や関連する様々な機器、人員が要りません。
それでなくても 「Des Moines」 級は重量超過になって設計で苦労しているんですから。
それにそもそもその程度の対空戦闘を米海軍が考えているなら 「Des Moines」 級や 「Worcester」 級そのものが要りません。
>4基の方位盤を別目標に振り分けなければならない状況ならば、もはや主砲による対空射撃は困難(砲塔旋回が追いつかない)なのではないかとも考えられますし。
何故です? 近距離に目標がいる場合には、主砲を用いる距離には目標は絶対にいない、そしてテレビゲームの様にスイッチ一つでポン・ポンと瞬時・簡単に主砲や副砲の指揮管制システム (多くの機器や人員) が切り替わって対空戦闘が実施できる、とお考えですか?
>>何より主砲の射撃指揮・管制の実施方法などの問題が出てきます。
>これは具体的にどのような事なのでしょうか?
ハード的、人的にどのようにしたら砲の指揮管制が可能になるかをお考えください。 例を挙げれば、SP(Sound Power) による通信系統はどうしますか?
主砲系統と副砲系統のそれぞれで、どういう構成にし、どのように切り替えていくのか。 そしてそれを使って、誰がどの様にして主砲や副砲の指揮管制をし、対空戦闘を実施していくのか、そのためにどういう人員がどこにどれだけ必要になるのか。 等々です。
>Mk. 54 Directorに対空方位盤の機能が付与されていないとした場合、では、どうする事が対空方位盤としての機能を有する事になるのでしょうか?
それは対空用にどういう機能が必要かをお考えいただければよろしいかと。 早い話が、何故応急的な措置として副砲用の Mk 37 Director を使わなければならないのか、です。
>回答者は別に"本格的"というように断言しているわけではないので、何もそこまでという気がします。
それならば、始めから戦艦や巡洋艦の主砲の対空射撃を論じること自体が無意味です。 極端な話し、射撃指揮装置さえ無くても、砲が撃てさえすれば(弾さえ出れば)対空射撃は可能と “言える” ことになりますから。
ですから、当該議論は “本格的” ということを暗黙の前提としたものであることは言わずもがなでしょう。
>Des Moines級の場合、主砲用射撃盤として、Mk. 8 range keeperとFord Mk. 1 computerの両方を備えているので、
「Des Moines」 級の主砲用はこれ専用の Mk 1A Computer です。
Mk 1A と Mk 8 Rangekeeper とで、対空射撃時と対水上・対地射撃時とでわざわざ切り替えて使うような贅沢な装備・構成になっているのでしょうか?
今更ですが、一部回答させて頂きます。
> それは対空用にどういう機能が必要かをお考えいただければよろしいかと。 早い話が、何故応急的な措置として副砲用の Mk 37 Director を使わなければならないのか、です。
当方は、「Mk. 54方位盤に載っているレーダーがMk. 13で、これでは対空目標の照準・測距ができない」としか、理由として挙げる事ができません。
同居しているMk. 66測距儀が、対空目標を測距できるタイプなのかは把握していません。
桜と錨さんは、Mk. 54のどのような点が、対空方位盤としての機能が不十分であると考えているのですか?
また、方位盤とは、米海軍の場合、的を照準する事により、射撃盤に高角と方向角のデータを入力するだけのシステム(乱暴な言い方ですが)ではないのですか?
> ですから、当該議論は “本格的” ということを暗黙の前提としたものであることは言わずもがなでしょう。
当方の考える本格的とで、程度に違いがあるように感じます。
桜と錨さんの考える本格的の程度は、誰もが認める本格的ということになりますが、この場合、94式高射装置ですら、本格的ではない対空方位盤・対空射撃盤ということになってしまいます。
これに関しては、あの文章を読んで、質問者・回答者がどの程度をイメージしていたのかを、各自が異なった判断を下したという事で、別に変とも思いませんし、どちらの考えの方が正しいとか間違っているとか、断定できるものでもないと考えます。
この件は、これ以上は平行線にしかなりませんので、コメントは控えます。
> Mk 1A と Mk 8 Rangekeeper とで、対空射撃時と対水上・対地射撃時とでわざわざ切り替えて使うような贅沢な装備・構成になっているのでしょうか?
当方が見た情報では、そうなっています。
>どのような点が、対空方位盤としての機能が不十分
方位盤とはどのようなものかの “解説のご要望” と受け止めさせていただきます。 機会があればいずれは本家HP又はこちらで。
>誰もが認める本格的
“当時” どのように考えられていたかであって、現在の誰もがではありません。 当然のことです。 ですから、
>94式高射装置ですら、本格的ではない
などと言い出せば、当時のもので本格的なものは一つもない、と言うことになります。 無意味な議論であることは明らかかと。
>当方が見た情報では
当方としては、「ANACOSTIA さんの資料ではそうなんですか」 以外申し上げることは何もありません。
いずれにしましても、コメントありがとうございました。