多くの方はご存じでしょうが、この “トンデモ本” とは 別宮暖朗著 『 「坂の上の雲」 では分からない 日本海海戦 』 (並木書房 2005年) です。
今後は、この書籍のことを単に 『別宮暖朗本』 と称することにします。
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そこで、今回は 「苗頭」 についてですが、 『別宮暖朗本』 の “トンデモ文” を引用しながらお話することにします。
( なお、当該本からの引用については、お持ちの方 (間違って買ってしまった方) がおられるかもしれませんので、参照に便利なように頁数を付しておきます。)
| 砲術将校は、この左右決定または目盛り盤決定のさいの数値を苗頭 (びょうとう) (Deflection) と呼んだ。 (p63) |
「左右決定」 とは “何に対して” の左右なのか示されておらず意味不明なのですが・・・・ それはともかく、わざわざ 「びょうとう」 と振り仮名をふってありますが、誤りです。 「びょうどう」 です。
| 当初 (江戸時代末期) は旋条 (ライフリング) された艦砲から発射された弾丸が飛行中に横にずれる現象を指した。 (p64) |
苗頭とは “風によって” 飛行中の弾丸が横にずれることを意味したのが語源です。 そしてこれは艦砲での話しではなく、陸上での、しかも滑筒砲 (Smooth Bore Gun) の時代のことです。
( 「筒」 は例によって替え字です。 以下全て同じ。)
旋条による弾の旋転によるこの現象の “結果” は 「定偏」 (Drift) と言います。 こんな言葉さえ知らないのかとガックリくるのですが・・・・
「定偏」 については本家HPの 『砲術講堂』 内の 『射撃理論解説 超入門編』 又は 『同 初級編』 をご参照下さい。
そして、艦砲射撃において 「定偏」 のことを 「苗頭」 といったことはありません。
「苗頭」 とは、照準線に対して採られる砲 (筒) 軸線の修正量のことです。 ですから、「定偏」 の “修正量” のことを 「定偏苗頭」 とも言うことがありますが。
本家HPの 「艦砲射撃用語集」 にキチンと掲示してありますが、もう一度念のために書きますと
旧海軍の定義 :
「 左右苗頭とは射弾を目標に導く為、照準線に対し筒軸線を修正すべき左右方向の角度を言い、水平面上若しくは鏡座面上に投影せるものを千分の一 (1/1000) 単位にて呼称す。 水上射撃にありては単に苗頭と言うを例とす。」
( 注 : “例とす” というのは 「そうしなさい」 という意味の官公庁用語です。)
海上自衛隊の定義 :
「 左右苗頭とは射弾を目標に導くため、照準線に対して筒軸線のとらるべき左右の角度を言い、密位で表す。」
ということで、苗頭は照準線を基準とする左右方向の修正量の “総量” のことです。 したがって、これには定偏、運動見越、風など弾道に関する全ての修正要素が関係してきます。
( 注 : 明治30年代の初め頃、一時的に 「定偏」 に替わり 「固有偏差」 という用語を使ったことがあります。 また 「定偏差」 と言う用語も出てくることがありますが、何れも極く一時的なものでした。)
また、旋条砲は 「Rifled Bore Gun」 といい、「旋条」 を 「rifling」 と言いますが、「旋条」 という用語は 普通名詞 であって、“旋条された” などと動詞で使われることはありません。 「旋条が施された」 又は 「旋条を有する」 です。
| 帝国海軍であれば、旋条は右回転を与えるようにつけられているから、弾丸飛行中、やや右にずれることになる。だがこれは1000メートル以内の据え切り砲戦で 問題になる にすぎず、語源はすぐ忘れられた。 (p64) |
もう何というか、小学生でも判る “嘘” ですが・・・・ 定偏の原因が旋条による弾の旋転ならば、その値 (量) は飛行秒時、即ち射距離が長くなれば長くなるほど大きくなるのは自明のことです。
したがって、もし 「定偏」 について書くとしても、せいぜい 「1000メートル以内の据え切り砲戦ならば “問題にならない” 」 でしかあり得ません。
(この項続く)