2009年08月24日

『飛翔雲』 第1章 揺籃時代 −その1

著 : 高橋 定 (海兵61期)

第1章 揺藍時代

 はじめに

 海軍航空の初飛行は、大正元年11月2日の観艦式参加のための試飛行である。 それから約20年間、昭和5〜6年頃までを海軍航空の揺藍時代と言っていいのではあるまいか。

 昭和12〜3年頃には、この時代の猛者達がまだ生き残っていた。 私はその頃海軍中尉で、大村、佐伯、霞浦等を歴任し、これらの人々に会ったが、彼らは火傷や切傷は勿論のこと、何かの逸話を持つ頑固者達ばかりで、いつも昂然と胸を張って私達の飛行訓練を見ていた。

 夕食後など士官室でこれらの人々と一緒に寛ぐと、トランプの相手をやらされて、ミスプレイをやると頭を殴られたり、罰金をとりあげられたり、時には酒の相手を命ぜられて深夜までつきあいをさせられ、不思議な物語を聞かされた。

 これらの人々は一般に自分自身の体験談はあまり話さなかった。 自慢話になるからだ。 しかし他人のことは、それが上官同僚であろうと下級者であろうと、はっきりと褒めたり貶したり是非善悪を歯にもの着せず論断した。 それは呵責なく激しいもので、中国の昔話にあるが、舌鋒鋭く相手を悶死させるようなものもあった。

 時々事件が起こった。 例えば、誰彼の区別なく悪口を叩いていたら、その相手当人が士官室の一隅に居合わせていたため大論争となり、翌朝の飛行作業開始まで徹夜をしてもけりがつかなかったり、あまりに誉められるので薄気味が悪くなって、誉めている当人を 「お世辞を言うな」 と言ってぶん殴ったりすることがよくあった。

 こんな時には、私は座を外さず一部始終を聞き漏きなかった。 「高橋中尉! 貴様は自分の部屋に還っておれっ」 と言われても去らなかったので、そのために何回か殴られたこともあった。

 このようにして得た見聞を紹介して、揺藍時代の一端の理解の足しにして頂こうと思う。

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