2009年08月19日

艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について (2)

 で、私もフッと反省したわけです。 そうか本家サイト 「海軍砲術学校」 の 「艦砲射撃用語集」 の中にもこの照準関係は入れていなかったな〜、と。

 本家サイトの方は次の機会にでも追加修正することとして、取りあえず話を続けるために、ここでまず旧海軍史料に基づき用語の定義をしましょう。

「照準線」 : 照準線とは、望遠鏡照準器に在りては鏡軸の通視線、其の他の照準器に在りては照門と照星との通視線を言う。

「目標」 : 目標とは射撃すべき物体を言い、仮標とは直接に目標を照準し能わざる時仮に照準すべき物体を言う。

「照準点」 : 照準点は目標 (仮標) 中照準線を指向すべき点を言う。

「照準」 : 照準とは照準線を目標 (仮標) の照準点に指向するを言う。


 したがって、「照準発射」 と言えば、上記の “照準” をして砲を発射することを意味します。

 それでは、この 「照準」 は誰が行うのでしょうか?

 これは砲側照準においても方位盤照準においても、旋回手の協力動作の下で、射手 (=俯仰手) が行います。 もちろん、旋回手が配置されない (=必要がない) 小口径砲においては射手が一人で実施します。

 次に、ではこの照準の 「精度」 はどれくらいが要求されるのでしょうか?

 これは使用する砲種と、射撃する距離、目標の大きさを考えていただくと、概略のところはお判りいただけるでしょう。

 例えば、初速700mの12インチ (30センチ) 砲で、射距離6千mとします。 この時、目標の乾舷の高さ7m、幅25mの目標 (日露戦争当時の戦艦の船体中央断面よりやや大きい程度) の場合の命中界は63m+25m、即ち88mとなります。

hitting_space_01_s.jpg

 この射距離差88mは、砲の仰角に換算すると約9分、0.15度になります。 即ち、この目標艦の舷側上甲板ラインを照準して発砲する時には、発砲時にその照準が0.075度以上上下の何れかにずれると全く当たらないことを意味します。

 また、長さ120mの目標が真横に向いているとするならば、この目標は20ミリイ、即ち約1.2度の幅に見えます。 これも艦の中心を照準しても、発砲時に左右10ミリイ (=0.6度) 以上ずれると当たらないことを意味します。

( 当然ながら、射弾の散布や測距誤差、指揮誤差などの問題が加わって、問題はもっと複雑ですが、ここでは話しを簡単にするために、これらのことは取り敢えず除外します。)

( また、この簡単な例示でも、何故旋回手でなくて俯仰手が射手となるのかがお判りいただけると思います。 そしてもう一つの理由が、照準線に対する目標の相対的な動きは、横方向よりも縦方向の方がダイナミックだからです。)

 これはここでのご説明のために例示した、この条件での極めて大雑把な最大許容範囲に過ぎませんが、射手はどんなに大きくともこれ以内の誤差に納めて引金を引かなければならない、というところがお判りいただけると思います。

 しかも、これを動揺や相互の艦の運動などにより、照準線に対して目標が上下左右に複雑に振れ回る中で、加えて風が吹く中、波・しぶきをかぶり、砲煙を浴びながら、です。 それも弾の飛び交う砲戦の間ずっ〜と。

ponter_sight_02_s.jpg
( 明治37年12月制定の 『連合艦隊艦砲射撃教範』 より )

 その上、砲の旋回、俯仰というのは、水平面に対してそれぞれ水平、垂直に動かす (動かせる) ものではありません。

 揺れる艦の甲板面に対して旋回、俯仰するわけですから、正しい 「照準」 を維持するためには、旋回(手)、俯仰(手)の両方によって緻密な連繋操作をしなければなりません。

ponter_sight_01_s.jpg

 また、方位盤などまだ無かった時代の (そしてその後の時代でも砲側照準のときの) “照準する” とは、照準器だけを動かせば良いということではなく、“大砲 (砲塔) そのものを操作して” 行うものであることに注意してください。
(続く)

posted by 桜と錨 at 23:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
父(94歳。甲種合格なので簡単には死なないと主張して、未だにタバコがんがん吸いながら生きてます)は戦前は戦艦の主砲砲塔員でしたので、子供のころから「方位盤」という言葉を教え込まれました。
ちなみに子供の頃、一階の電話に出て両親あてだとブザーを「ぶ・ぶー」兄あてだと「ぶ・ぶー・ぶ」僕あてだと「ぶ・ぶー・ぶ・ぶ」と鳴らして2階に知らせていましたが、後で聞いたらそれは当時の指揮所から砲塔への連絡手段の一つだったということです。この記事も、毎回わくわく読んでます。
Posted by 凡夫 at 2009年08月19日 23:40
凡夫さん

ご存じとは思いますが、
 「・−」 は 「高め」
 「・−・」 は 「打ち方控え」
 「・−・・」 は 「打ち方待て」
ですね。
Posted by 桜と錨 at 2009年08月20日 12:10
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