2009年08月11日

回想録 『聖市夜話』 の連載完結に当たって

 40話にわたって皆さんにご紹介してきました森栄氏の回想録 『聖市夜話』 の連載が完結いたしました。

 もし最後までお読みいただいた方がおられましたならば、厚くお礼申し上げます。

 連載の冒頭にも書きましたように、本回想録は昭和50年前後に海上自衛隊の部内誌に掲載されたものです。 したがって、その対象読者は海上自衛官、特に幹部ですので、その意味では一般の方々には少し判りにくいところがあったかもしれません。

 しかしながら、本回想録は現在では海上自衛隊部内ではその存在さえ知られておらず、これが掲載された部内誌さえ私の知る限り海上自衛隊には僅か2ヶ所にしか残されていません。 ましてや一般の方々に公開されたことはありません。

 このような貴重なものがこのまま埋もれてしまうことを危惧し、また残念に思う気持ちから、この私のブログで皆さんにご紹介いたしました。

 皆さんにとっては、これも世に沢山ある回想録の中の “一つ” であったかもしれません。 それはそれで良いと思います。

 しかし、本回想録は私にとっては幹部海上自衛官としての大変貴重な “教科書” でした。

 防衛大学校・幹部候補生学校を卒業して幹部海上自衛官になって以来、当然のことながら、船乗りとして、軍人(自衛官)として、また部隊指揮官としてのあり方については、多くのことを諸先輩から教えられ、色々な書き物を読んできました。

 しかしながら、結局のところ私にとっては勤務上の参考となるようなものはごく僅かであり、特に “功なり名を遂げた人達” のものには共感できるようなものはほとんどありませんでした。

 そういう中で、この森栄氏の回想録は心から 「うん、そうだ!」 と思える数少ないものの一つです。

 一例を挙げるならば、森氏も書いておられますが、私の初任幹部時代の艦艇部隊では明けても暮れても “AP、AP、AP・・・・” でした。 AP、又はATPというのは 「Allied (Tactical) Publication」 の略で、本来は連合国海軍の戦術書のことですが、米海軍から海上自衛隊にリリースされた教範類など全てを包括した意味でも使われていました。

 APが金科玉条のごとく取り扱われ、それに書かれていることを一言一句違わずに忠実に実施できることが訓練の目標のような状況でした。 悪い言い方をするなら “バカの一つ覚え” のようにも見えるほどに。

 若気の至りと言えばそれまでですが、当時から常々 「それだけでいいの?」 「戦術というのはその時その時の状況によってどんどん変わってもいいのじゃないの?」 「APというのは一つの “指針” に過ぎないでしょ?」 と感じていたわけです。

 そして、私の初任幹部時代からだんだん年をとってくるにつれて、それと並行するように防衛庁・海上自衛隊という組織も、本来の “海軍” という姿から次第に “お役所” へと変化し、艦艇勤務においても “男のロマン” などはほとんど消え去って行きました。

 これで本当に良いのか? 私がこの森栄氏の回想録に共感を覚えるところはこの点にあります。

 海上自衛隊は “制服を着た官僚を作るお役所” ではなく、真に役に立つ “海軍軍人” “船乗り” を作るところのはずです。

 今でも、本回想録は江田島の幹部候補生学校や第1術科学校幹部中級課程、そして目黒の幹部学校指揮幕僚課程のテキストにしても良いほど、現役の海上自衛官達に真剣に読んで貰いたいものの一つと思っています。

 そういう気持ちで本ブログの管理人が皆さんにご紹介してきたものだ、ということを少しでもご理解いただき、お読みいただけるならば幸いです。
この記事へのコメント
連載お疲れ様でした。
楽しみに読ませて頂いておりました。
大変面白く読ませて頂きました。
Posted by 孔子 at 2009年08月11日 20:13
毎日楽しみに読ませていただきました。
まことに生き生きと筆致で、迫真性に満ちておりました。
連載本当にお疲れさまでした。
ありがとうございました。
Posted by 野村 at 2009年08月12日 00:53
「聖市夜話」楽しみでした。特に「朝顔」での護衛作戦が印象的でした。
Posted by 出沼ひさし at 2009年08月12日 10:59
孔子さん、野村さん、出沼ひさしさん

ありがとうございます。 私自身2回の艦長を経験しましたが、それに基づいても心底から共感できる取って置きの一つです。
Posted by 桜と錨@夏風邪ダウン中 at 2009年08月13日 14:50
現在、各地を渡り歩く仕事ですが、毎日唯一の楽しみが、こちらを拝見することです。

当時にも因習、既存概念や見掛けに囚われず、総合的な見地から行動し、最善の解決策を見出し、絶望的な環境でも素晴らしい結果を生み出す方がいらしたことに、驚きを覚えると同時に敬服の念を抱きました。

 ただ、このようなトータル・バランスに優れたタイプの方々は、日本では厚遇されず、むしろ異端児として排斥される傾向にあったのが残念に感じます。

さらに残念なのは、その体質が現在でも、脈々として受け継がれ、それこそ善なりと信じ、軍を省庁名や企業名に置き換えただけの、60年以上経っても本質的には、なんら変わらぬ現在の日本の体質に悲しさを感じております。

 珠玉の記録に触れられる幸運を提供してくださったご好意とご苦労に感謝致します。
Posted by bimo大好き at 2009年08月17日 09:09
bimo大好きさん

「聖市夜話」をご覧いただき、またコメントをありがとうございました。

 大変お忙しい日々のご様子ですが、お楽しみいただけたとここと、嬉しく存じます。

 現在次の連載を考えているところですが、こちらはもうしばらくお待ち下さい。
Posted by 桜と錨 at 2009年08月17日 23:30
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