徹甲弾がある厚さの鋼板 (装甲板) に対して「貫通」するかしないかは、極く簡単には弾速(撃速)と鋼板の厚さの関係として採り上げられます。
( もちろん、撃角などの問題もありますが、取り敢えずそれらは置いておくことにします。)
鋼板を貫通した場合、一般的には徹甲弾は基本的にほぼ元の形状で残ります。
例えば、次のように。 この写真は、ある厚さの鋼板に対してこれを貫通するに要する最小の撃速、即ち 「均衝撃速」 の場合を示す典型的な例です。

(左は表側から見たもの 右は同じものを裏側から見たもの)
また “貫通できなかった” 場合には、徹甲弾は鋼板によって跳ね返される (rebound) か、破砕する (shatter) かのどちらかとなります。
当然ながら前者は撃速がある範囲より遅く、後者は速い場合です。
ところが、通常の徹甲弾は完全な “球形” や “円柱” などではありませんし、構造も材質も “均質” ではありません。 これが問題を複雑にします。
確かに単に撃速を増して運動エネルギーを増加しても貫通できない鋼板の厚さというものが発生してきますし、しかも単純な撃速と鋼板の厚さの関係では無くなるからです。
実際には、撃速1300m/秒以下の場合、次のような現象になるとされています。

( 元画像 : AMC Pamphlet 706-245, 1964 より )
( 因みに、旋条を有する一般的な砲熕武器、つまり旋条砲の場合、初速でさえ900m/秒を超えるものはほとんどありません。)
即ち、徹甲弾が破砕しても鋼板を貫通する場合もあれば、赤枠で示したように鋼板の厚さが薄くても破砕して貫通しない場合も生じてきます。
また、撃速を速くして運動エネルギーを増加させるだけでは貫通できない鋼板の厚さも生じてきます。
もちろんこの図はある特定の徹甲弾と鋼板についての一例を示したもので、それ以外のケースでは当然個々それぞれで異なってくることは言うまでもありませんし、かつこの図でも具体的な数値が示されているわけでもありません。
したがって、この話題の切っ掛けとなった
“ 速すぎると弾丸が壊れて「貫通」できなくなりますよ ”
だけの説明では余りにも単純で、かつ実態を意味しておらず、むしろ旋条砲が用いる徹甲弾に対する一般論的な表現としては “誤り” といえます。
つまり、もし上図の赤枠の部分を言うとするならば、
“ ある特定の撃速範囲においては、それより低い撃速で貫通できた鋼板の厚さを貫通できず、徹甲弾が破砕してしまう場合も生じる可能性がある ”
とするのが適切でしょう。
また、もし単純に弾速による運動エネルギーの増加だけでは貫通できない鋼板の厚さが生じることを言いたいのであれば、それは当初の某巨大サイトでの質問にあったような撃速範囲と鋼板の厚さではないことを明記する必要があるでしょう。