2009年05月12日

聖市夜話(第35話) 最後の大上段(その4)

著 : 森 栄(海兵63期)

 102戦隊が「朝顔」船団とあらかじめよく作戦打合せをやり、まず「朝顔」船団を先に送り出し、「朝顔」船団の沖縄側に102戦隊が占位し、「朝顔」船団の間接護衛をなしつつ南鮮に移動するならまだ話は別であるが、102戦隊のやり方は上記の反対で全く他人のように冷いものであった。 即ち、

1. 小型で足の速い無傷な船だけ受持つ

2. 麾下個有兵力の艦でも、故障海防檻は「朝顔」船団にくれてやる

3. 間接的に「朝顔」船団を護衛してやる配慮全くなく、同じ方向に行動するのに何らの作戦打合せもない


 以上のような状況 −余りにも情けない102戦隊のやり方− からみて、私は102戦隊はあるいは何か別の任務を有するのではないかと想像してみたが、これに関しては何らの説明もなかった。

 さて、今度は「朝顔」船団の対策を私は考えなければならなかった。 泊地内の大兵力であった102戦隊が出た後、泊地内はすっかり物寂しくなった。 「捨て去られた」 という強い感じを「満州丸」以下各船が覚えたことと想像された。 特に南方から命からがら長途北上してきた3隻にとっては、いかなる感慨であったろうか。

 私はまず船団会議を「朝顔」士官室で開催した。 案の定、護衛部隊に対する各船の期待度は今までかつて見られなかったように強烈であった。 私は火に油を注ぐように各船長に話した。

1. 祖国は目の前にある、長駆敵の攻撃に耐えてきた各船も、後一息のがんばりで祖国に足を踏むことができる。

2. 「朝顔」以下の護衛部隊は、歴戦の強者揃いであり、102戦隊のように粒こそ揃ってはいないが各船の期待に十分答え得るものである。心配はいらない。

3. 敵艦隊は近々500マイルの沖縄周辺にあり、我が船団を全滅させようとして連続猛烈な攻撃を加えてくることが予想される。

4. 以上の状況において、前途の困難を突破する道は、一に船団部隊の「結束」である。


 私は列席している各艦及び各船の代表者たちの真剣な姿を見て、「これは行ける」 と感じた。 今まで時々みられたような 「頼りない」 ような者は一人もいないように思われた。

 出発の前日か当日であったか記憶が明らかでないが、印度洋の水雷艇「雁」でともに戦ってきた第81号海防鑑S艦長が私のところに飛び込んできた。 「内火艇(艇員2名)を出したところ、濃霧のため行方不明となった」 とのことであった。

 私は同艦長がかつて先任将校として、未熟の私を献身的に補佐してくれた恩義に報いることができるのはこの時であるとばかりに張り切って、全護衛艦に至急出港準備を令した。 ボヤボヤしていると島に漂着した艇員が、敵性住民に殺される恐れがあったからである。

 しかしやがて各鑑の 「出港準備よし」 の報告が「朝顔」に来だした頃、幸いにも霧が薄くなり内火艇は無事海防艦に帰着し、全艦の出動を見ずに終わった。

 同艦はこれより前、102戦隊の命で夜間泊地周辺哨戒中、敵機と交戦し操舵装置に爆弾を受け、鋭意艦内工作で修理中であったが、このため102戦隊より「朝顔」船団へ回されたのであったが、私は同鑑が今後の護衛中更に困難な状況に遭遇することを予想し、思い切って舟山島定海の工作所に回航修理を命じたと記憶している。 このとき護衛艦1隻を割愛することは大きな決心を要した印象がいまだに残っている。

 なお「朝顔」船団の護衛艦として加わった第20号駆潜艇は、4月18日香港発、24日泗礁山に着いたばかりであった。
(続く)

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