2009年05月10日

聖市夜話(第35話) 最後の大上段(その2)

著 : 森 栄(海兵63期)

 泗礁山泊地内のこれらの陣容を見ていると、久し振りの威容で「居る所には居るものだ」と頼もしくも思われたが、沖縄も取られた今日、この6隻を門司まで安全に入れ込むことの困難さを考えると、強い緊張を覚えた。

 またバシー海峡付近で南方物動輸送の大動脈が中断されている戦局を思うと、恐らくこれが護衛作戦の最後の御奉公かとも想像された。

 そしてこの6隻の中で、重要物資を積んでいる「満州丸」だけは是非とも安全に門司に入れたいという、イ36育ちの護衛艦の本能が湧き出てくるのであったが、しかもこの船が全船のうちで最も大型で敵潜敵機の第1目標となることは明らかであることも皮肉な点で、かつフレーム10数本が損傷して浸水中であることは致命的な弱味であった。

 泗礁山泊地の周辺は102戦隊の海防艦で輪番哨戒が行われていたが、敵大型哨戒機もまた我々の在泊を知って毎晩哨戒兼爆撃にやってきて、彼我の間に小戦闘が繰り返され、海防艦側に損害が発生していた。

 しかし「朝顔」の乗員はこの難局に入り込んでいることも全く意に介しないかのように、平常と何らの変化もなかった。

 また沖縄突入行動以来一緒である哨102も、「朝顔」同様士気旺盛と認められたことは、私に最高の自信を抱かせる基であった。 いかなる難局にあっても微動だにせず、黙々として「朝顔」についてきてくれる哨102の艇長以下全乗員の頼もしさは私の心に強い印象を残した。

 沖縄の戦局は毎日毎日敵の圧倒的物量によって押しまくられていたが、ここ泗礁山泊地は敵機の夜間哨戒以外大きな戦闘もなく、入泊して約10日は平静のうちに経過して行った某日、門司にある第1海上護衛艦隊K長官(まま)(岸 福治、中将、40期)から電報があり、

 「102戦隊司令官は泊地内の船団を2分し、102戦隊は船団を護衛しつつ南鮮(巨文鳥)に移動し、残り船団は「朝顔」艦長をして門司まで護衛せしめよ。」

 ということになった。

 私はH少将の兵力の配分に注目した。

 思うに重要船「満州丸」及び3,000トンと1,000トンの2隻は、必ずや同少将が護衛されるであろうと思った。

 片や少将片や少佐、私は連れて行った空船2隻と後残りの1,000トン級1隻でも護衛しますかいな、という気持ちであったが、やがて102戦隊の電報は発せられ、その結果は次の表のようになった。

N0.船 名総トン数(千トン)速力積 荷私の予想決 定
満州丸重要鉱石102戦隊朝 顔
 102戦隊朝 顔
(空 船)朝 顔朝 顔
 102戦隊102戦隊
(空 船)朝 顔102戦隊
0.8 朝 顔朝 顔

 (原注) : 空船とあるのが「朝顔」が連れて行った貨物船である。

 すなわち102戦隊側の選んだ貨物船は6隻のうちで最も優速(約10〜11ノット)の2隻であったこと、小型ばかりであったことが特色であった。
(続く)

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