2009年01月31日

『聖市夜話』(第22話) 海南島の鉄船団(その2)

著 : 森 栄(海兵63期)

 中2日の休養の後、19年4月3日1400、タサ16船団8隻を第41号駆潜艇と共に護衛して海南島の三亜向け高雄発。

 この船団は海南島の鉄鉱石を内地に運ぶための空船の貨物船であり、空船というと万一敵の魚雷を受けてもすぐブクブクと沈んでしまう上りの満載船と違い、護衛する側の気も楽であった。

 9日無事楡林着、護衛艦は西隣りの三亜に1130投錨し、翌日出発の「上り船団」までわずか一晩の休養を急いだ。

 楡林の町には三越進出(?)の広東料理店があった。 店主は日本人服部四郎氏であって、元三越社員とのこと。 また水雷屋の大先輩で有名な「原為」さんこと原為一大佐(49期、開戦時の「天津風」駆逐艦長、その後27駆逐隊司令)は義兄弟である由で、年のころ私より約10歳上。 憂国の士然とした風格の持主であったが、この部下の数名の年若き女性群は、同氏が直接乗り込んで両親直々の承認を受けてきたという、香港の良家のお嬢さんたちの由。 そういえば容姿端麗かつ立ち居振舞いがお上品で、服部先生ご自慢の種であった。

 服部先生は自ら立って私達「朝顔」幹部をサービスし、このお嬢さんたちに給仕を命じた。 某嬢は私たちのグラスに酒をつぐ時差し出した手の袖口を残る片手でそっと抑えた、その楚々とした物腰の優美さに私たちは殺伐な戦いを忘れた。 「どうも服部シーさんの話は本当らしいな」 ということになった。

 ここでは広東料理を鱈腹頂戴することができた。 この食べ物も次の行動のための大事な準備の一つである。 この頃以後 「入港したら、有銭はたいても旨い物を食え、栄養が不足したら戦さは続けられぬ。」 ということが、艦長の信条となった。

 翌10日1000、ユタ04船団6隻を第18号掃海艇とともに護衛して、高雄向け楡林発。

 次の配船準備がこのように余り手際よくできている基地に飛び込むことは、有り難くないことである。 「待ってました」 とばかりにこき使われ、最少限の一晩しか休ませてもらえない、というのは不届きなる冗談であったが、護衛艦側の偽りのない実感でもあった。

 今度の船団6隻は、正に典型的な海南島発の鉄鉱石船団であって、各船は約1万トンの鉄鉱石を深々と積み、乾舷は水の上にわずかに見え、大きな波浪でもあれば舷を飛び越して船倉内に海水が侵入しそうであるが、そうはさせまいとして船倉上の各ハッチは厚板を被せ、その上に厚いケンバスをかけ、厳重な防水措置が施されていた。

 当時の海南島は既に早くから日本の掌握下にあり、ここの産出する鉄鉱石は日本にとって、重要戦略物資の一つであった。 したがって海南島から日本に何回となく鉄鉱石を運ぶこれらの船団の乗組員たちには、1トンでも多く運んで日本の戦力発揮に役立っているという強い使命感があった。

 しかし一歩海上に出ればこれを狙う敵潜がいた。 予備浮力の少ない鉄鉱石船団には、敵としては一本の実用魚雷でも惜しいくらいに、たちまちブクブクと沈められる危険極まりない代物であって、船団乗組員にとっては命の綱は唯に護衛艦だけであった。 万一の場合に船体、積荷を助けることなどはとんでもない空想であって、乗員を迅速に救い上げることだけが護衛艦ができそうな精一杯のサービスであった。

 また海上には、中国西部奥地の昆明を基地として、広く南シナ海を哨戒している四発重爆のB24がいた。 大体低速な貨物船ばかりであった上に、船腹深くもうこれ以上積めないところまで重い鉄鉱石を満載しているのであるから、実速は遅く(4ノット前後)第1日目に発見し引続き第2日目にも楽に捜し出しやすいという代物で、速力の早い飛行機から見れば広い大海原の中で、あたかも停止しているかのような存在であった。

 このように、敵潜敵機に対してひ弱い船団であり、また少しでも行き脚をつけようとして缶を焚くせいか、煙突から出る煤煙も比較的に多い船団でもあったが、船の型が揃っているという特長のほか各船長以下乗員の真剣さと慣れによるものか、船団結束は良いという特長があった。

 これについては門司あたりの船団会議で、元気のよい船長が立ち上がってあたりを見回し、

 「本船のような高速船が、速力の遅い船団と一緒に同じ航海をさせられることは、全くもって迷惑千万である。 一隻ぐらいの敵潜は振り切って突破する自信があるから、単独にて行動させてはもらえないか。」

 と陳述するような、活気の良い、また若干不十分な護衛兵力など有名無実であるという底意を持ったような空気は、この鉄鉱石船団には全然認められず、各船長は真剣・真面目で、落伍船もなく、船団隊形もよく纏まっていた。
(続く)

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