2009年01月20日

『聖市夜話』(第20話) 恥ずかしき幸運(その2)

著:森 栄(海兵63期)

 次に商船2隻以上と護衛艦2隻の組合せの場合には、大抵船団航海速力は護衛艦の探知速力より遅い場合が多かったが、もしも早い場合には1隻対1隻の場合に既述したものと同様な考慮を要するが、反対に遅い場合にはまず「朝顔」を敵潜出現公算の最も強い方向に不規の行動をさせ、その反対側に次席護衛艦を船団からの概略の定位置に付けるのであった。

 例えば、日没前後「朝顔」は船団後方2〜3キロで、左右5マイルずつを走り回っている時は、次席艦は船団前方に配し、「朝顔」のような左右5マイルにわたる行動は許さないが、さればとて1番船前方2キロを同針路同速力で行くことは禁物で、左右1〜2キロにわたり八字運動をやらせる。

 要するに「朝顔」は必要に応じ船団から5キロも側方後方などに離れることがあるから、次席艦は船団から離れるな、船団から信号でもあればすぐ応信しとけ、船団が雷撃されて「朝顔」が見えない場合、すぐ緊急斉動なり攻撃なりやっておけ、という趣旨であった。

 したがって先の例で、日没前後から正子にかけて、「朝顔」は右側方5キロから左側方5キロにかけて走り回り、敵潜の浮上追跡に対しある程度の阻止カを発揮でき、その間次席艦は船団前方を船団より2キロ以内にくっついて警戒することができる。

escort_20_1_s.jpg

 この例で、正子を過ぎて日出前後までにわたる間に配備を換える場合には、正子頃次席艦に船団後方を令して「朝顔」は前方に出て、風波方向、視界状況、月の状況などにより、船団左前方から攻撃してくる算大と判断されるならば、「朝顔」は船団の左20〜45度・距離5〜1マイル付近を走り回って敵の攻撃海面に脅威を与え、攻撃を妨害し、あわよくば見張りと探信儀で捕捉するということになる。

 次に護衛艦が3隻になれば、もし「朝顔」がその3〜6時間にわたって、特に右前方を警戒したいと思うならば、次席艦を船団後方に配し、三席艦を船団左側前部に補強することができる。

 4隻以上となれば、更に船団周辺の空いている側に補強できるわけであって、このように護衛艦が多く配備されたら、各艦探信儀の周波数・最大速力・砲力・爆雷兵装・艦の長さ・2キロ信号灯の有無、探知力棟度、艦長の技量などによって、船団全周の均衡をとる必要があることはもちろんである。

 上記要素のなかで、艦の長さは旧一等のように115メートルもあるのは対潜艦艇としてマイナスで、旧二等駆逐艦「朝顔」級の85メートルがギリギリで、駆潜艇の50メートルはプラスと私はみていた。

 例えば、格式だけ高くて少将の司令官が乗っている「香取」が護衛艦に加入したと仮定すると、この「香取」も私たち同様の探信儀しか持っていない、しかも艦の長さが130メートルもあるとすれば、こんな艦は自身の安全のためにも護衛艦が欲しくなるくらいで、護衛艦としてはかえってマイナスで、敵潜の攻撃目標となりやすく、危くて見られない存在であった。

 前にも言ったとおり、敵潜はこちらの格式に恐れをなして敬愛してくれるのではないからである。
(続く)

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/25697521
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック