海上自衛隊の古い史料から、“かつては、こんなものもあったよ” という13回目です。
続いて砲術・艦砲射撃に関する 「教範」 についてお話ししますが、今回はそのメイン中のメインである 『艦砲射撃教範』 です。
この 『艦砲射撃教範』 は、旧海軍においては近代射法の誕生に伴う大正2年に始めて制定されたもので、その後数度にわたり射法を中心とする艦砲射撃の発展と共に改訂が加えられ、最終的に昭和12年の全面改訂されたものが旧海軍における最後のものとなりました。
その教範の目的とするところは 「射撃関係員を訓練シ戦闘ニ当リ射撃効果ヲ最大ニ発揚セシムル為準拠スベキ原則ヲ示ス」 ものとされています。
戦後の警備隊及び海上自衛隊の創設期においては、当初は “ともかく何でも米海軍に倣え” ということで、米海軍資料に基づいていましたが、結局のところ、砲やレーダーについてはともかくとして、砲術・艦砲射撃そのものにつては米海軍に習うことはほとんどない、と言うことがハッキリしてきました。
これにより、旧海軍のものを参考にしつつ新たな教範を作ることとなり、これが 昭和33年の海上自衛隊達第11号別冊 『艦砲射撃教範』 として制定されました。

この戦後初の 『艦砲射撃教範』 は 「射撃にあたり射撃効果を最大に発揮するため、射撃関係員の従わなければならない原則を示す」 とされ、旧海軍のものとは多少の表現の違いはあるものの、その目的とするところは同じものです。
当初は 「秘」 指定のものでしたが、昭和41年に なって防衛庁達とそれに基づく海上自衛隊達の制定に伴い、これを 「取扱注意」 とした上で、新たに海上自衛隊教範第10号の 『艦砲射撃教範』 として出し直し たのです。
そして、その後の装備武器などの進歩に伴い、昭和48年に これを多少修正・改訂したものが 「取扱注意」 指定 (後に文書管理の変更に伴い 「注意」 となりました) の 海上自衛隊教範第203号 『艦砲射撃教範』 となりました。

ただし、「この教範は、艦砲による射撃に関する教育訓練の準拠を示すことを目的とする」 とされ、時代の世相を反映して実際の戦闘を匂わせる表現では無くなっています。
とは言っても、私達の若い頃はこれで習ったのですが、全体的な内容はそれまでの 『艦砲射撃教範』 の要旨を踏襲したもので、まだまだ旧海軍時代のものが色濃く残っており、流石は旧海軍の艦砲射撃の伝統に基づいた端的で緻密なものであると思いました。
しかしながら、その後の趨勢として短SAMも含むミサイル搭載艦が増えるにしたがって、このミサイル射撃も含めたものにしたらという声が出てきたことによって、 平成10年に このミサイル射撃と艦砲射撃とを一つにした新たな 『艦艇 射撃教範』 が「秘」 指定の海上自衛隊教範第376号 として出されたのです。
( 「秘」 指定の文書とは言っても、実際には本来の秘密部分はデータなどのほんの一部で、ほとんどのページは 「部内限り」 となっています。 )
ところが、この教範はミサイル射撃と艦砲射撃を一つにしてしまったために、元の 『艦砲射撃教範』 にあった旧海軍時代から続く用語の定義や射撃指揮に関するものを、ミサイル・システムに合わせた、いわゆる “現代風” にしてしまったのです。
このため、本来教えるべき艦砲射撃についての基本中の基本が判らないものとなってしまいました。
私達の多くは “これでは全くダメだ” と口を大にして指摘したのですが、その方面で名が知れたかの有名な人物が直接の当の担当者で、“これで良いんだ” と言い張って全く聞く耳を持ちませんで、この可笑しなものが制定されることになってしまいました。
結局のところ、これでは使い物になりませんので、艦砲射撃については従来のものに従って教えることになったのです。 (少なくとも私が現役の間はそうでした)
その後のことは、私は申し上げる立場にはありませんので m(_ _)m
そして、改訂版たる昭和48年のものは多分まだ残っているのでしょうが、最初の昭和33年のものはまだあるのかどうか ・・・・
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