2020年11月09日

回想録 『一若年士官の戦時体験記』 (2)


伊藤 茂 (元海自海将補 ・ 兵71期)

赴 任

候補生実習を終了し、配属先も決まって、それぞれの任地に赴任して行ったが、水上艦あり、潜水艦あり、あるいは前線根拠地隊付等様々で、ここから我々級友各々の運命は大きく別れ別れになっていった。

さて、私ども第十七駆逐隊付に発令された3名は、他の南方方面行きのクラス数十名と一緒に空母 「瑞鶴」 に便乗し、18年1月18日夕刻、岩国沖を出港した。

静かな内海の島の上には宵の明星が美しく輝いていたが、日向灘に出るやたちまち荒天に遭い、巨艦 「瑞鶴」 も、また同航の 「武蔵」 さえも大きく揺れ始め、側方を警戒航行中の駆逐艦に至っては波の谷間に入るとマストだけしか見えなくなり、まるで木の葉のような有り様で、間もなく俺もあのような艦に乗るのかと思うと、最初の意気込みはどこへやら、内心いささかがっかりした。

実は、かねて先輩から 「駆逐艦に乗らねば一人前の海軍士官にはなれない」 と教えられていたので (このことは米海軍資料にも同様に書かれてある)、それ相応に鍛えられることは覚悟のうえであり、駆逐隊付に発令されたときには “よし一つやってみよう” と意を決したのに、もうこんなことではと先が思いやられた。

一路南下すること5日、トラック島の泊地に入ると、そこには 「大和」 を始めとする大小様々の艦船がずらり停泊し、その威容は目をみはらしめるものがあった。 環礁内の風景も誠に平和で、一向に戦地にきた感じはおきない。

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( 昭和18年トラックにおける 「大和」(左) 「武蔵」(右)  背景は秋島 (FEFAN I.) )

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( トラック環礁内の艦隊錨地 (斜線の3か所) 1944年の米海軍史料より )

ここで駆逐艦に乗る連中十数名は第十六駆逐隊の 「雪風」 に移乗。 同艦では出港前の慌ただしい状況下にもかかわらず、いよいよ戦場に臨まんとする我々候補生のために武運を祈って乾杯してくださったのが印象に残っている。

なお、このときクラスの某が、「今度駆逐艦に乗せられた者の中には成績の優秀な者は一人もいないぞ。 どうもいつ死んでもいい連中ばかり乗せられたらしいが、何かあるのではないか」 と冗談ともつかぬことを言っていた。

しかし他のクラスには、当時もその前も多くの最優秀組の人達がおられたのに、我がクラスだけどうだったのだろう。

トラック島をあとにして更に南下し、翌日ラバウル着、ここで我々3名は第十七駆逐隊の司令駆逐艦 「谷風」 に乗艦、北村司令 (昌幸 大佐 兵45期) の訓示があり、午後同艦通信士の案内で上陸、初めて南方の土を踏んだ。

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( ラバウルとショートランドの位置関係 Google Earth より加工 )

しかしここでも席の暖まる暇はなく、翌朝出港してブーケンビル島のショートランド泊地に進出、漂泊中の隊内3艦に一人づつ別れ、私は2番艦 「浦風」 (艦長 : 岩上次一 中佐 兵50期) に着任した。 内地出撃後11日目であった。

Shortland_sat_R0211_01_s_mod.jpg
( ショートランド泊地 Google Earth より加工 )

(参考) : ショートランド泊地はショートランド島と北側のブーゲンビル島とに囲まれたところを主としますが (輸送船などはショートランド島東側にある水上機基地の沖合も利用) 、ラバウルより更に南の最前線であり、港湾防備施設もほとんど整備されておりませんので、艦艇は日中は即時待機状態で漂泊、夜間に錨泊していたようです。

落ち着くところに落ち着きはしたが、遙々来たものかと思い、いよいよ一人になった感じはいささか心細く、大艦には数名は一緒に乗ったのにと、羨ましく思ったりして級友を懐かしむこと一入 (ひとしお) であった。

(続く)

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