2019年07月17日

錨と錨鎖の話し (13)


錨泊法の種類

さて、これまでお話ししてきた錨と錨鎖についてですが、今回はこの錨と錨鎖を使った錨泊法についてです。

錨泊法には次の3種類があります。

  単錨泊
  双錨泊
  二錨泊


単錨泊

単錨泊は文字通り1つの主錨とその錨鎖を使用して錨泊するもので、特に理由がなければ一般的に用いられる方法です。

使用する錨鎖の長さには、前回の (12) のように 通常錨泊法荒天錨泊法 とがあります。

いずれの場合でも、風及び潮流によって艦が振れ回りますので、錨地の周りには十分な余裕が必要となります。

この余裕の目安は、浅所や陸岸などの固定物に対しては危険界 (艦型による吃水で安全を保てる水深の限度目安) から、他の錨泊艦船や浮漂などに対してはその物体から、保有全錨鎖長+自艦の全長以上 とするのが一般的です。

選定する錨地の水深は、一般的にその艦の吃水の1.5倍以上 とし、海底の起伏が大きなところやうねりが入るところでは更に余裕をとる必要があります。

投錨方法としては、前進投錨後進投錨 があり、旧海軍では個艦の場合は主として前者、艦隊などでの編隊入港の場合は主として後者によっていました。

海上自衛隊では 米海軍の影響もあって後者が多くなり、特に最近の護衛艦ではバウ・ソーナーを備える艦が多くなってきたため、基本的に全て後進投錨 です。


ただし、同じ後進投錨といっても旧海軍と海上自衛隊とではやり方が異なっている ことには注意が必要です。

則ち、旧海軍では 6ノット程度の前進の機械のままで進み、予定錨位の約50m手前で機械を停止として 前進の存速のままで予定錨位に進み、その錨位に達した時に投錨 、直ちに後進の機械を使って後進の行き足とします。

これに対して、海上自衛隊では 予定錨位の手前で機械停止、後進半速として微弱な前進の行足でその予定錨位 (第1回錨位) を過ぎた後、後進の行き足がついて再度予定錨位 (第2回錨位) に戻った時に投錨 します。

このため、前回 (12) でお話ししたように、投錨時の艦の行足が異なっています (当然、海自のやり方の方が後進の行き足は強い) ので、旧海軍の教範を踏襲した海自の教範に記載された (何故か平成4年の改正時でも変わっていない) 、最初の抑止を行うのは錨鎖が水深の1〜1.5倍出たところとするのではまだ早すぎ、則ち錨鎖が短すぎて、錨を引っ張って起こしてしまう可能性が高いのです。

Anchor_Kyouhan_H09_01_m.JPG
( 旧海軍の昭和4年の教範より )

Anchor_Kyouhan_H04_01_m.JPG
( 海自の平成4年改正の教範より )


深海投錨

単錨泊の変形で、文字通り水深の深い場所に錨泊するもので、艦の大小や底質などの条件で異なりますが、一般的には 40m程度を限度 としています。

特別な理由があって更に水深の深いところに投錨する場合は 70m程度を限度 とし、これを 大深海投錨 と呼んでいます。

この深海投錨では、錨と錨鎖の重量により走出が止まらなくなる危険がありますので、錨位の水深−25m程度まで巻き出しておき、投錨後着底を確認したら一旦止めて、以降はソロリソロリと少しずつ所定錨鎖まで伸ばします。 もちろん通常の投錨法と異なり、艦の行き足は錨鎖が海底で団子にならない程度に極めて微弱なものとする必要があります。

大深海投錨の場合は、いわゆる投錨を行わず、最後まで揚錨機を使って巻き出します。


双錨泊

双錨泊は、錨地が狭い場合や艦隊などで揃って錨泊する場合で、艦の振れ回りの量を少なくする時に用いられます。

前進投錨 (又は後進投錨) によって主錨の1つを投錨し(第1錨)、錨鎖を延ばしながらそのまま所定の方位に進み、2つ目を投錨した (第2錨) 後、それぞれの錨鎖の長さを調整しつつ双方の錨の中間点で繋止し、錨泊する方法です。

Anchor_double_03_m.jpg
( 後進双錨泊の例 )


なお、旧海軍時代の観艦式などでもこの方法を応用し、更に式典時には振留錨を使用して方位を合わせるか、場合によっては主錨又は副錨を短艇などで搬出して投錨し、錨索を艦尾に繋止して方位を合わせる方法が行われました。

Fleet_Review_M41&S03_01_m.JPG
( 明治41年 (上) 及び昭和3年 (下) の観艦式より )


二錨泊

二錨泊は、荒天 (季節風のような) や河江での場合のように、ほぼ一定の方向から強い外力を受ける時に用いられるもので、2つの主錨とその錨鎖による把駐力に期待する方法です。

この場合、2つの錨の交角は一般的に60度程度 (40〜50度程度が最適)、どんなに広くても120度を超えない (これを超えると二錨泊の意義が無くなる) こととし、錨鎖は両方とも同じ長さ (一般的には7〜9節程度) とします。

ただし、単錨泊と同じように振れ回りますので、これを押さえるために艦尾から中錨を 振留錨 として投入する方法もあります。

Anchor_double_01_m.jpg

この二錨泊の応用として、下図のように風向の変化に応じて片方の錨鎖長を短くする方法もあるにはありますが、荒天下の作業には困難なものがあり、かつ風向の変化がそれ程急激では無いことが前提になります。

Anchor_double_02_m.jpg


しかしながらいずれにしても、台風のように 風向の変化が激しい場合などには二錨泊は不適 です。


その他の特殊な錨の使い方としては、投錨回頭法、各種の 河江錨泊法高速投錨法 などがありますが、旧海軍時代ならともかく、現在の海上自衛隊ではまずその機会もありませんので、説明は省略します。


なお、現在の海上自衛隊では、バウ・ソーナー装備艦が多くなったことや、岸壁が整備されて錨泊の機会が少なくなったことなどがあり、単錨泊以外はほとんど行われません。

私の現役中でも、単錨泊以外の経験は全くありませんから、今の若い艦艇長でこれらの経験がある人はまずいないと思います。

「ゆき」 型や 「あぶくま」 型などでは、やろうと思えば出来るんですが ・・・・

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前 : 「 錨と錨鎖の話し (12)」

次 : 「 錨と錨鎖の話し (13・補)」

posted by 桜と錨 at 14:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 海軍のこと
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