2019年07月03日

錨と錨鎖の話し (10)


制鎖器と抑鎖銲

(7) のコメント欄にて次のようなお尋ねをいただきました。

制鎖器 (controller) と抑鎖銲 (compressor) の関係がよく分かりません。
抑鎖銲についての説明は見つからず…。

当該コメント欄でも簡単にお答えいたしましたが、軍艦と民間船と大きく異なるところの一つが錨と錨鎖に関連した装置など、特に前甲板の艤装方法です。

例えば民間船などについての一般的な説明図の典型的なものが次のようなものでしょう。

Compressor_04_s.jpg

これと既にご紹介した 「大和」 の前甲板と比較していただければ、その違いがお判りいただけると思います。

この上図で A とされているところが制鎖器ですが、明治末期以降の軍艦の場合はこの制鎖器を装備するものはまずありません。 その代わりが抑鎖銲とスリップなどで、また揚錨機の型式も大きく異なります。

その一方で、民間船では抑鎖銲を装備するものはまずありませんで、またこの制鎖器を “Compressor” としているものもあります。

そこで海軍におけるその制鎖器と抑鎖銲ですが、大正期頃のものでは次のように示されています。

Compresser_02_s.jpg
( 大正11年の海軍用語 「運用の部」 より )

Compresser_01_s_mod.jpg
( 当時の制鎖器と抑鎖銲 )

この抑鎖銲は昭和期に入ると次のような種類が多くなりました。

Compressor_05_s.jpg

現在の自衛艦などでは次のように錨鎖管口直下にハンドルで操作するT型鉄銲と呼ばれるものが一般的です。

Compressor_03_s.jpg

( ただしこの図では 「抑鎖器」 となっていますが、海上自衛隊でその名称を使うことはありません。 単に 「抑鎖銲」 であり 「抑鎖銲ハンドル」 です。)

なお、キャプスタン下側にある錨鎖車には ブレーキ (=制動機) がついており、ブレーキ・ハンドルによりその締め付けの強弱を付けられるようになっています。

いわばこれが Controller (=制鎖器) の役割を果たします。

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前 : 「 錨と錨鎖の話し (9・補) 」

次 : 「 錨と錨鎖の話し (11) 」
posted by 桜と錨 at 22:34| Comment(5) | TrackBack(0) | 海軍のこと
この記事へのコメント
非常に分かり易い説明をしていただいて有り難うございます。
制鎖器:Controller。錨孔と錨鎖車の間に設けられているもので、錨鎖の抑止、及び誘導・調整に使用する。
抑鎖銲:Compressor。錨鎖管の甲板開口部に設けられており、錨鎖の抑止に使用する。民間船は軍艦ほど錨や錨鎖の使い方が多彩でなく、錨鎖管側で錨鎖を抑止する必要がないため、これは装備されていない。
と理解致しました。
そもそも抑鎖銲は民間船には装備されていないのですね。民間船の揚錨設備ばかり見て記述が発見できなかったのも宜なるかなです。
ご指導いただき感謝致します。
Posted by 正純 at 2019年07月04日 17:33
正純さん

少し補足しますと、軍艦でも例えば明治期の錨を錨床 (アンカーベッド) に収める型式の艦ですと、錨孔の直ぐ手前に制錨器を備えているものが多いです。

日露戦争期の写真などでもこの状況が写っているものがご覧いただけるかと。

しかしながら、錨をベルマウスにがちっと収める形になって以降は全てスリップ・ストッパーで固定する方式になり、制鎖器は使用されなくました。

制鎖器ではどうしてもガタが生じるからです。

Posted by 桜と錨 at 2019年07月04日 20:23
ありがとうございます。
貴サイトの「懐かしの艦影」コーナーにて公開されていらっしゃいます「海軍揚輝」の「朝鮮海岸航行」で確かにアンカーベッドと共に制鎖器を確認できました。
また記念艦三笠の艦首部の写真においても同様に確認できました。

アンカーベッドに錨を収めていた間は荷重が錨鎖のみだった。しかしベルマウスに収める様になってからは錨の重量も加わるようになり、錨鎖の動きを止めるだけでよかった制鎖器単独では力不足となった、と理解致しました。

重ねて感謝申し上げます。
Posted by 正純 at 2019年07月05日 17:53
正純さん

>制鎖器単独では力不足となった

はい、それともう一つ。 ベルマウスに錨を収めた時に固定位置の制鎖器ではピッタリと格納することができず、どうしても錨と錨鎖の長さと制鎖器までの距離には誤差が出ますし、錨鎖のリンクの元々の製造誤差や摩耗により微妙に変化してきます。 このため錨がピタッとベルマウスに密着しないと波・うねりでガタガタしてしまうことになります。 しかしこれを修正する方法は制鎖器ではありません。

スリップ・ストッパーですとスクリューを回せば長さが調節できますので、これによって錨鎖と錨を引っ張って錨をベルマウスに圧着させることが可能になります。

これも大きなメリットですね。

Posted by 桜と錨 at 2019年07月05日 23:23
なるほど、スリップ・ストッパーならばターンバックル(或はボトルスクリュー)によって、制鎖器では出来ない錨鎖に合わせた調整が行えるということですね。

恥ずかしながら、ターンバックルは張力調整の為のものということを失念しておりました。
ありがとうございます。
Posted by 正純 at 2019年07月06日 18:47
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