2019年04月30日

海自 砕氷艦の運用から撤退検討


つい最近の産経新聞ニュースで、海自が人手不足を理由に砕氷艦 「しらせ」 の運用から撤退することを検討していることが報じられました。


う〜ん、私に言わせれば、これは単に人手不足というよりは、海上自衛隊という “制服を着た能吏” 達が取り仕切る組織の体制 ・体質そのものに問題があるのであって、その能吏たる高級幹部達がそのことを全く自覚もしていないし、ましてや本腰を入れて改善しようとする意図が無かったということに尽きるでしょう。

これは人事全般について顕著で、特に新入隊員の募集と退職者の就職掩護は酷いものといえます。

つまり彼等にとって自己以外のことは所詮 “人事はヒトゴト (他人事)” としてきたという現れです。

その原因について、暫く前に本家サイトの掲示板で書いたことがありますので、ここで再掲いたします。

↓ ここから
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1佐以上の自衛官の昇任 ・補職の人事は内局に握られています。 そして海上自衛隊の業務は全て内局に出向いて部員と称する担当の役人が納得のいくように説明しなければ何もできません。

( その自己の業績を上げるためにこねた屁理屈を、部内に対しても平気で通す訳で。 私が関係した「おおすみ」 型の輸送艦や、これに搭載する LCAC などはその最たるものでした。)

したがって内局の不評を買うようなことを彼等がするわけがありません。 要するに内局の下請けと言える、ごく普通の二流・三流官庁たるお役所であり、制服を着た有能な能吏であることが求められるのです。

その様な高級幹部を日々見ている海幕勤務を出入りするような若手エリート幹部がどのように育つのかは言わずもがなでしょう。

操艦が上手い、大砲やミサイルに詳しい、海上での運用作業がスマートにできる ・・・・ などなどは人事評価には影響しません。

このため、艦艇部隊の指揮官以下はその勤務期間を “無事故で大過なく過ごす” ことが重要なのです。 いわゆる経歴を付ければ良いわけですので。

海軍の伝統と言われる 「スマートで、目先が利いて、几帳面、・・・・」 というのは今は昔の話しで、現在では艦艇勤務においては何らの意味もありません。

しかも中級幹部にとって、術科学校の幹部中級射撃課程や水雷課程など、そしてその後に幹部専攻科を出てその道のプロとなるより、幹部中級用兵課程、続いて幹部学校の指揮幕僚課程を経て、統合幕僚学校の一般課程を出ることが重要です。

こういう中級幹部以上がいる艦艇部隊において、初級幹部が船乗りとしてプロになろうとする土壌が育つわけがありません。

そしてこのような幹部達の姿を海曹士も実によく見ています。 “何だそうなのか、その程度でいいのか” “うちの今の艦長はエリートだから、事故などで傷を付けないようにだけ注意しておけばよい” となります。

それに、海曹で部内幹部の受験資格ができると毎年強制的に受けさせられます。 彼等にしてみれば幹部になれるわけですから、喜んで頑張る者も多いのです。

( もし受験しないと、“こいつは向上心がないのか” “指導が悪い” と分隊長や分隊士に人事課からお小言が入ります。)

このため専門技量に優れた腕のある海曹が現場からどんどんいなくなり、しかもその部内幹部になった者達は今度は本来の専門とは関係のない初給幹部としての業務に忙殺されることになります。

そして海曹士の昇任は、毎年の昇任試験 (筆記試験で、専門の技量とはほとんど無関係) の成績が重要、というよりほとんどこれで決まってきます。

加えて少し前から曹候補生制度により入試の筆記試験で合格して海士になった者達は、経験や技量に関係なく、所定の年数が経てばほぼ自動的に3曹になります。

さて、こういう状況で、真のプロとしての艦艇部隊が育つのでしょうか?

そして現在では今まで無かった様々な任務が増えてきて、それの準備や訓練も合わせると極めて多忙になってきています。

じっくり基礎的・基本的な専門技量を身につける暇がありません。 極端な話し、護衛艦でソーナーを担当する水測員の中には、1年間実際の潜水艦と訓練してその生の音を聞いたことが無い、という者まで出てきている始末と聞いています。

それでなくとも、諸外国海軍の常識では考えられない、艦艇 ・航空の用兵幹部 (Line Officer) でない者が海自幹部のトップである海幕長になる。

これでは艦艇部隊の士気が揚がるわけがありません。

何だ、きつい艦艇勤務を選ばなくとも、陸上でデスクワークしかしない職種でいいんだ、と。

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↑ ここまで

この様になってしまった海上自衛隊の現状は口コミでもどんどん広がっています。 これが若い人の募集に影響が出ないわけがありません。

船乗りを育ててこなかった海自、船乗りを大切にしてこなかった海自。

平成の30年間は特にそれが顕著であったと思います。 その大きなツケの一つが今 “人手不足”、と言うより入隊希望者の減少と艦艇勤務の敬遠、いえ忌避となって現れています。

( もちろん、艦艇乗員の充足率の悪さは今に始まったことではないのですが ・・・・ )

posted by 桜と錨 at 17:39| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代戦のこと
この記事へのコメント
昇任試験は「3曹」「部内幹部」「幹部予定者」を除き廃止されました。
ただし、部内幹部は「有資格者は1回目は強制受験」とされています。
もちろん「本人の意思」によって2次試験で辞退は可能です。

艦艇というか、充足率の悪さは12年前の「待遇改悪」が大きいと思ってます。
当時不景気で集まっていた優秀な人材ほどやめていき、現在優秀な中堅が不足している印象です。
そんな中で現在速成栽培の若い「3曹」が量産され、OJTでフォローしようにも任務に忙殺され満足にできない。
(もちろん、優秀な子はすぐに昇任して仕事を任されてますが)

「このツケは10年後、中堅の不足として表面化しますよ!!」って私は言っていましたが、リアルになってしまいました・・・・
Posted by 現役○○科員 at 2019年05月01日 21:33
現役○○科員さん、こん**は。 コメントありがとうございます。

>昇任試験は 「3曹」 「部内幹部」 「幹部予定者」 を除き廃止

それは良いですね。 ただ問題は、筆記試験が無くなったことによる評価リストがどうなるかですね。

当該階級昇任日からの経過年数、入隊期別と成績、普通科・高等科の成績を基本とすることは変わらないでしょうから、あとは各部隊での定期評定と推薦序列でしょう。

とすると、部隊内調整の時に人を見る目のある指揮官がいればそれがキチンと反映されるでしょうが、単なる制服を着た役人ですと何の配慮もなく上記項目による順番そのままの序列になってしまうと考えられます。

そして総監部人事課などは各部隊から出された書類上でしか判りませんから、淡々と単に横並び項目で上から順番にリストを埋めるだけの事務処理に。

さて、現在は上手く機能していますか ?

>優秀な中堅が不足している
>速成栽培の若い「3曹」が量産

幹部では30年ほど前頃、海自創設期に入隊した部内幹部や予定者が大量定年を迎えた時、海自は事前に何ら有効な対策を講じなかったために、艦艇部隊は尉官クラスの大量欠員となりました。 何しろ護衛隊群旗艦の DDH でさえ砲術長が欠員となる有様で、砲雷長の下には任務課程を出た初任三尉が一人しかいない時がありました。

海曹クラスはお話ししたように当時でも優秀な者をどんどん部内幹部にしてしまってきました。

“私はこの配置でのプロを目指しますので、部内幹部にはなりたくありません” と言ってくれたのは少数派でしたね。

そして海士クラスは、技能も経験もないまま海曹にしてしまうような昭和50年の曹候補学生、続く平成2年からの曹候補士の制度など、結果は当時私などが猛反対したとおりとなりました。

今は曹候補生制度になっていますが、これも結局ダメと言うことですね ?


Posted by 桜と錨 at 2019年05月02日 12:29
お返事ありがとうございます。

>さて、現在は上手く機能していますか ?
ここについては、私が知る範囲は問題ないかと思います。
昇任試験で調整していた人たちは軒並み昇任させられてましたね。
でも「代わりがまだ育っていない、現場に残すべき優秀な人」を幹部に吸い上げてるようにも見える場合も。
特に幹部予定者は総員受験ですし・・・・

>今は曹候補生制度になっていますが、これも結局ダメと言うことですね ?

個人では優秀な子もいますので、制度の問題よりも運用側の問題が大きいかと思います。
(私も猛反対された区分に属しますので・・・)

今問題になってるのは「体力測定第1主義」です。
現場が押すどんなにいい子でも、「走り幅跳びが飛べない」「ボールが投げられない」だけでもう名簿から削除されていました。
その結果、体力「だけ」の若いのが昇任することに・・・
これは改善の方向が示されたので大丈夫だと思います。
Posted by 現役○○科員 at 2019年05月05日 13:13
現役○○科員さん

>ここについては、私が知る範囲は問題ないかと思います。

おそらく先任海曹制度が(やっと)できてうまく機能し始め、海曹クラスの意識が変わってきたこともあるでしょうね。

昔、某地方隊の艦長をしていた時、年度の地方隊の研究課題が 『上級海曹の活用法』 でした。 そして護衛隊を挙げて研究し、その成果を色々な改善提案として纏め、年度終わりの総監部での総合研究会で発表しました。

その研究会最後の講評で総監が「艦艇乗員服務規則 (案) の規定を十分に活用して ・・・・ 」と言い出したのです。

そこで総監講評の後にも関わらず、一艦長である私は手を挙げて 「ちょっと待ってください。 その規則 (案) では不十分だから現状があるのではないですか? 先任伍長や班長達の具体的な権限と責任を明記し、それを科長や艦長が監督をするというように書き改めなければダメというのが当隊の研究結果です。」 と満座の前で発言したことがあります。

当時からすると、現状を見るに遅すぎた感はあるものの、少しは良い方向に向かいつつあるようですね。

問題は高級幹部の体質の方で ・・・・ (^_^;


>個人では優秀な子もいますので

それは昔から同じですね。 記憶力の良し悪しだけを試す “お受験勉強” のような筆記試験の成績が良いだけではダメで、現場での専門術科の技能・経験をキチンと身につけているかどうかを評価すれば、海曹として十分役に立ち、活躍できるはずの人材を海自はどれだけ失ってきたか (^_^;

船乗りの仕事は、陸上のオフィスでのデスクワークとは全く異質なんですから。 そして海自はその船乗りを育てることが最優先であるべきなのです。

>体力 「だけ」 の若いのが

陸さんの影響が入ってきたんでしょうかねえ。

昔、統幕の特別課程の時、同じクラスに入校してきた陸将補の学生殿の着校第一声が “ここにはグランドに鉄棒はないのか” でしたから (^_^)


Posted by 桜と錨 at 2019年05月05日 18:03
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