2019年03月04日

戦線は音威子府付近で膠着し


継戦能力や陸自の自前輸送艦のことが話題に出てきまして、昔のことを思い出しました。

もう30年ほど前のまだ冷戦期のこと。 米軍の情報部門が作成した 「もし現在の世界的な軍事情勢の中で、ソ連が日本に対して武力攻撃を行うとしたら」 という想定シナリオ集がありました。

( 今となってはもうこんなものがあったことを覚えている人はいないでしょうし、冷戦期の資料そのものも残されているかどうか ・・・・ ? )

約10本くらいの色々なシナリオが収録されていましたが、その中には当然ながら日本本土に対する陸上兵力による本格的な武力侵攻を想定したものも含まれていました。

当時の日米共同・協同演習や海上自衛隊演習などでお馴染みの

「・・・・ 戦線は音威子府付近で膠着し ・・・・」 という演習想定は、まさにこのシナリオに基づいたものです。

しかしながらこの本土侵攻のシナリオは、蓋然性が高い順に並んでいるこのシナリオ集の確か一番最後か、巻末の付録に収録されていたと記憶しています。

で、これを疑問に思っていた私は、ある時米軍の情報部門担当者の一人に聞いてみたんです。

なぜ、日本本土侵攻のシナリオが最後の付け足しみたいになっているの? これが極東では一番重要なのでは?

すると、若い女性の中尉さんが、半分呆れたような表情を隠さず、笑顔で答えてくれました。

えっ、知らなかったんですか?

このシナリオは元々は無いものだったのですが、日米共同訓練などで使うためにわざわざ作って入れたんですよ。

これがないと、演習で日本の陸上自衛隊さんの出番がないでしょ?

日本侵攻のためにはソ連は海を渡ってこなければならないでしょ? そこまでの労力とリスクをソ連が冒すと思います? 東京を占領できるわけでもないのに?

私達はその様な事態が生起するとは全く判断していませんよ。

ということでした。

そう、当たり前と言えば当たり前のことですが、日本本土侵攻のためには “海を渡って来なければならない” んです。

先頭の正面兵力にしても後続兵力にしても、そして継戦能力維持のための後方支援、何よりも補給のために。

やっぱりねえ (^_^)


皆さんは 「1990年危機説」 というのをご存じでしょうか?

1985年を過ぎた頃から、ソ連の経済・産業の状態は既に全くの不振に陥り、これ以上の軍拡にはとても堪えられない (特に米国が打ち出した 「スターワーズ計画」 には対抗できない) ことがハッキリし、いずれはソ連そのものが崩壊するであろう事も視野の中に入ってきました。

こういう状況にあって、もし1990年までにソ連軍が最後の一か八かの全面通常戦争に打って出たならば、米軍・ NATO を初めとするは西側は、欧州方面でも、太平洋方面でも勝てないかもしれない、と考えられていました。 これは米軍自身がそう思っていたのです。

そしてその1990年を乗り切れば、西側は決して負けることはないと。

実際のところ、私が知る限りでは1986〜1988年頃は米海軍の現場のスタッフ達もピリピリしていましたね。


その時のソ連軍をもってしてでさえ、米軍の情報部門はソ連の日本直接侵攻はあり得ないと判断していたのです。

私はこの時の美人 (お世辞抜きに) 中尉さんの話を聞いて以来、日本のあるべき防衛力についてのそれまでの自分の考えに確信を持つに到りました。

日本本土防衛のための抑止力としてなら、陸上自衛隊は兵力は半分 (当時の) で良い、装甲部隊、特に戦車などはごく少数でよい。

その予算と人員を海上阻止兵力たる海上自衛隊と本土防空隊である航空自衛隊の強化に回すべきである。

と。 これは今でも全く変わりませんし、変える必要があるとも感じていません。

それはそうでしょう。 離島防衛の話しにしろ何にしろ、相手は “海を渡って来なければならない” んですから。


そしてそれを逆に考えるならば、海兵隊、そして両用戦というものを全く判っていない “海兵隊もどき” の 「水陸機動団」 や、ましてや陸さんが自前の輸送艦を持つなど (^_^)

日本は島国であるにもかかわらず、多くの日本人に “海” というものを何も理解していない人達がいるということがよく判ります。


それにしても、陸上自衛隊さんというのは、帝国陸軍の昔から相変わらず “策士” が多いですなあ (^_^)
posted by 桜と錨 at 15:47| Comment(4) | TrackBack(0) | 現代戦のこと
この記事へのコメント
業務用PCに安物「DELL」を大量に入れたり、タイヤを入札制にしたら「クムホ」が入ってきたり、乾電池は「中国製」・・・

防衛庁から「省」になるまで、自前の高級官僚がいなかった防衛省なので、陸自はもちろん、官僚もダメなんだと思います。
Posted by 「おじか」で硫黄島まで行ったことがあります at 2019年03月04日 17:11
「おじか」 で ・・・ さん、こん**は。

官僚というのは今も昔も、省庁を問わず、椅子に座って書類でしか仕事をしません。

そして自己の所掌に関わることについては 「何か要求があるなら俺のところへ来て説明しろ。 俺がそれを納得したら動いてやる。」 です。

当然自己の業績を挙げることが大事ですから、実際のことはさておき、自分が上司に説明し易いものである必要があります。

で、陸さん (特に陸大、幹部学校出は) は昔からあの手この手、口八丁手八丁が得意であり、この能力が出世を左右してきたことはご承知のとおりです。

例えばその最も良い例が、今の市ヶ谷や十条の陸海空の床面積を見れば一目瞭然でしょうね。

Posted by 桜と錨 at 2019年03月04日 21:21
返信ありがとうございます。

私は十条に行った事がありますが、陸の補給統制本部は「火器車両」、「施設」のように職種で部が分かれていて、部長・課長はその職種の自衛官で、その下の「班長」には、装備についてほぼ素人の事務官が多くいるようでした。

以下は聞いた話ですが、誘導弾に使用する「発動発電機」があって、本来構成品として管理すべきところ、「施設科」サイドから「施設科」で扱うべき物品だとして「施設科」物品になったそうです。

誘導武器の場合、発電機は一定時間で新品と交換する消耗品のような扱いなのだそうですが、施設科物品とした場合、整備して使用する建前になり、交換用の新しい発電機を用意しておく予算がつけられないという、わけの分からない議論があったそうです。

同じ陸自内ですら「職種」の縄張りで酷い綱の引き合いがあるものだと思いました。
Posted by 「おじか」で・・・ at 2019年03月05日 06:53
「おじか」 で ・・・ さん

陸さんのそういう体質が官僚と “肌が合う” んでしょうね (^_^)

>ほぼ素人の事務官が多くいるよう

陸・海・空とも、書類上の辻褄合わせとお金の計算だけで、現場のこととは無関係の世界ですから。

ご存じのとおり、艦艇の建造ではもっと酷いですもんね (^_^;

Posted by 桜と錨 at 2019年03月05日 12:35
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