2018年07月20日

艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について (補)


先日この記事の (2) について次のようなお尋ねをいただいたところです。

十字の照準線が海面に対して傾いていますが、このナナメの照準線は海面に対して水平になるように補正されるのでしょうか?

望遠鏡が斜めになっていても補正する必要は無いと云う事でしょうか?

ponter_sight_01_s.jpg

艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について(1) :
     http://navgunschl.sblo.jp/article/31394377.html
艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について(2) :
     http://navgunschl.sblo.jp/article/31444732.html
艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について(3) :
     http://navgunschl.sblo.jp/article/31463342.html
艦砲射撃の基本中の基本 − 「照準」 について(4) :
     http://navgunschl.sblo.jp/article/31479877.html

回答は既に当該頁に付けておりますが ・・・・ ひょっとしてもしかしたら他にも同じような疑問を持っておられる方がおられるのではないか、とハタッと思いましたので、少し補足説明をしたいと思います。


既に (1) 〜 (4) でも、そして本家サイトの他の項のところでも書いておりますが、再度申し上げますと、

砲台も方位盤も艦の甲板面を基準にして据え付けられております。

そして、大重量物である砲台はともかく、大戦期までは有人の方位盤でも方位盤そのものが動揺修正装置の上に乗っているものはありませんでした。

これが開発されたのは大戦後になってからで、例えば海自の射撃指揮装置1型や米海軍のGFCS Mk68などです。 ただしその後はすぐに無人方位盤の時代となっていますが。

したがって、方位盤射撃にしても砲側射撃にしても、射撃のための照準はこの揺れる甲板面を基準にして行われることになります。

とすると、正確な射撃計算をするためにはどこかで照準又は測的のデータに動揺修正を加えて水平面基準に変換し、そしてそこでの計算結果を再度甲板面に換算し直して砲に送る必要があります。

この動揺データの計測は、これを人的に行うか又はジャイロを利用するかのどちらかとことになります。

ここまではご理解いただけていると思います。


さて、問題はここからです。

砲台 (小口径の単装砲などを除く) でも方位盤 (小型の簡易型を除く) でも、照準は上下を担当する射手 (俯仰手) と左右を担当する旋回手の二人によって行われます。

なぜ俯仰は射手が担当するかは既にほかのところでも説明してあるとおり、通常は照準線の縦の動きの方が横の動きよりはるかに大きく、かつ射撃上も左右よりは俯仰の方が高い照準精度を求められるからです。

そして水上目標を照準する場合には目標は水の上に浮いていますので、この (照準線に対する) 縦動揺は、射手による俯仰の照準操作の中に自動的にこの動揺データが含まれることになりますから、これを人的に計出する別個の縦動揺手は設けなくても構いません。

もしあれば射手の照準操作は楽にはなりますが、しかし旧海軍では射弾精度のために射手が上下動の上限と下限のタイミングを見計らって引金を引くことがやかましく言われましたので、照準器の視野を安定させてしまうとそれが判り難くなります。


もう一つが横動揺ですが、これは射手と旋回手による照準操作のデータには含まれませんので、別個の横動揺手が必要になります。

そこでお尋ねいただいた件ですが、もし射手や旋回手の照準望遠鏡にこの横動揺手による動揺データが入力され、その視野が水平を保つようにしたとしたらどうなるでしょう?

確かに一見すると安定して照準しやすくなるように思われるかもしれません。 そして射撃指揮官にとってはこれの方が射撃指揮や弾着観測のために見やすくなることは確かです。

ところが、射手や旋回手の照準操作そのものは甲板面を基準 (=動揺によって揺れ動く) として傾いている方位盤を動かすものです。

つまり先の図を水平面が水平になるように直すと、方位盤は動揺によって傾いていますので、射手や旋回手の操作は下図の赤線の方向に方位盤を動かすことになります。

ponter_sight_01_s_mod.JPG

したがって、照準器の視野のみを横動揺に対して水平安定させると、射手や旋回手の照準操作はその視野の垂直、水平方向とは異なる動きになってしまい、射手や旋回手は見ている視野と自己の操作による動きとで感覚的に差を生じる不具合となります。

ではそれなら、ついでに方位盤の俯仰と旋回の機構にもこの横動揺を組み込んだらという意見もあるかもしれませんが、そのためには方位盤が複雑なものとなることは明らかです。

このことから、照準望遠鏡の視野は横動揺に対して安定させずに、方位盤の動きそのものとなっているのです。

以上のことは砲側の照準器についても同じことですので省略します。

そして、対空目標の場合は空を飛ぶ航空機の動きそのものは当然動揺とは無関係ですから、射手や旋回手の照準データには目標の動きと動揺とが一緒になっていますので、横動揺手の他に縦動揺手によって照準線に対する垂直方向の動揺データの計測が必要になるわけです。


以上ですが、後ほどこの項の (1) 〜 (4) と本頁を纏め直して、本家サイトの 『砲術の話題あれこれ』 に加えたいと思っています。

また、旧海軍における照準発射法の概説について新たなコンテンツを作り 『旧海軍の砲術』 コーナーに追加するように準備しています。


この旧海軍の照準発射法、まあ日本人気質らしく大変に細かいことをやっていると言えばそうなのですが、逆に動力や自動制御の技術が劣っていたためにやむを得ず、というところがあることもまた確かです。

posted by 桜と錨 at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 砲術の話し
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