2017年08月23日

拙稿 「アイオワ級の兵装」 の補足 (4)


第3回目に引き続き Stable Vertical Mk41 についてです。

前回 Mk41 の機能を活用した3種の発砲管制モードについて説明しましたが、そこでこの Mk41 の外観イラストを見て 「?」 と思われた方もおられるのではないでしょうか?

そうです、この Mk41 には引金が3つ並んで取り付けられています。 これですね。

Iowa_firingkey_illust_01_s.JPG

右側から、
   Hand Firing Key
   Automatic Firing Key
   Salvo Signal Key
となっています。

なぜこれらが Mk41 に付けられているかというと、これが先の発砲管制モードに必要だからなんです。


拙稿で簡単に説明したように 「アイオワ」 級の主砲システムにはその運用のために各種のモードが設定されています。

(1) 主砲作動モード
    a.自動 (Automatic Control)
    b.指示器追尾 (Indicator Control)
    c.手動 (Local Control)
(2) 主砲管制モード
    a.主用管制 (Primary Control)
    b.副次管制 (Secondary Control)
    c.砲側管制 (Local Control)
(3) 発砲モード
    a.主用発砲管制 (Primary Fire Control)
    b.副次発砲管制 (Secondary Fire Control)
    c.補助発砲管制 (Auxilliary Fire Control)
    d.砲側発砲管制 (Local Fire Control)

3つの発砲管制モードではこれらを適切に組み合わせて発砲回路の形成の仕方を決定します。

「継続発射」 (Continuous Fire) モードというのは、いわゆる中〜大口径砲の通常の発砲要領のもので、旧海軍や英・独海軍などとほぼ同じです。

firing_mode_01_s.JPG

つまり、各砲塔へ送られる砲旋回角及び砲仰角の諸元の値は、射撃盤 Mk8 において水平面基準で射撃計算されたものを、Mk41 からの動揺データにより甲板面基準の値に変換されたものです。 (図では一例として±4度として描かれております。)

各砲塔ではこのデータにより 「自動」 (Automatic Control) 又は 「指示器追尾」 (Indicator Control) モードにより砲旋回角及び砲仰角を操縦します。

したがって、砲の旋回角と仰角とが動揺修正を加えられた射撃計算値に一致していれば、いつでも発砲回路は発砲可能 (Ready) 状態となります。

この状態で主発砲キー (マスター・キー)(方位盤、発令所、射撃指揮所、各砲塔のいずれのものでも選択指定可能) の 「Hand Firing Key」 を引けば、Ready 状態の砲は発砲します。

斉射間隔をキチンと管制したい時などは発令所で、照準が最適の瞬間に発砲したい時は方位盤で、砲戦状況を見ながら適切な時期に発砲したい時には射撃指揮所で、というように引金を引く場所とタイミングを選べるわけです。


しかしながら、動揺の激しい場合などではこの動揺修正された砲旋回角や砲仰角ではその動揺に伴って常に値が変動しますので、「自動」 モードでも 「指示器追尾」 モードでも、どうしても誤差 (追従遅れ) が出てしまいます。

このような場合には、射撃盤 Mk8 で砲旋回角及び砲仰角の発砲データに動揺修正値を加えず、元の水平面基準で計算された値を砲へ送ります。 こうするとこの発砲データは動揺修正が加味された場合のように変動しませんので、誤差 (追従遅れ) はほとんどでません。

したがって、Mk41 の動揺データにより甲板面が水平面と一致する瞬間、即ち動揺が±0の時に、砲の旋回・俯仰は水平面基準の射撃計算値のままで発砲すればよいこととなります。

これが発砲管制モードでの 「周期指向」 (Intermittent Aim) です。 事前に 「Automatic Firing Key」 を引いておけば、丁度動揺がゼロ (±0) になった時に自動的に Ready 状態にある砲の発砲回路がオンとなり発砲することになります。

firing_mode_02_s.JPG

この 「Intermittent Aim」 モードは、照準線方向 (レベル、Level) の動揺か、またはそれに直角方向 (横方向) (クロス・レベル、Cross-level) の動揺で行うかを Mk41 のスイッチで選択することが可能です。

もちろん普通の状況ならレベルを選択しますが、例えば船体の横動揺が激しい時に艦首尾方向に射撃する場合などでは、クロス・レベルを選択することもあり得るわけです。


3つ目の 「Selected-level」 モードはこの 「Intermittent Aim」 の応用で、例えば動揺が水平に対してどちらかの側に偏っているような場合、あるいは船体そのものが傾いている場合には、水平 (±0) ではなく、ある一定の甲板面の傾きの値を Mk41 に手動設定して、動揺がその値と一致した瞬間に発砲しようというものです。 (図では一例として5度となっています。)

firing_mode_03_s.JPG

もちろん砲に送る砲旋回角及び砲仰角は、水平面基準での計算値にこの設定値を加味したものであることは申し上げるまでもありません。 そしてこのモードで発砲する時も 「Automatic Firing Key」 を使用します。


一番左にある引金は 「Salvo Signal Key」 で、その名の通り、主砲発砲の前に予め方位盤、射撃指揮所及び各砲塔へ注意喚起のブザーを鳴らすものです。 ただしこれは旧海軍のように各種の戦闘号令に応じたブザー信号を出すような凝ったものではありません。


強力な砲塔動力と精巧な自動制御機構による自動操縦モードといい、この発砲管制モードといい、流石は米海軍と言えるでしょう。

人の技に頼った旧海軍と、それに頼らず誰でもが簡単・平易にそれなりのレベルを発揮できることを考えた米海軍との大きな違いがここにもあります。

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(前) : 拙稿 「アイオワ級の兵装」 補足 (3)

posted by 桜と錨 at 21:32| Comment(5) | TrackBack(0) | 砲術の話し
この記事へのコメント
何度もお邪魔してすいません。
主用管制
副次管制
砲側管制
主用発砲管制
副次発砲管制
補助発砲管制
砲側発砲管制
これ等はどのように違うのでしょうか?
何度か書籍で見かけたことはあるのですがいまいちはっきりわかりません。
利点・欠点も合わせて教えてもらえると幸いです。
Posted by Mk.63 GFCS at 2017年09月05日 14:10
Mk.63 GFCS さん

>これ等はどのように違うのでしょうか?

まずは 『世界の艦船』 9月号増刊の拙稿をお読みいただいてからにしましょう (^_^)

Posted by 桜と錨 at 2017年09月05日 18:05
わかりました。
丁度、注文していたのが今日届いたので早速読みたいと思います。
Posted by Mk.63 GFCS at 2017年09月05日 18:11
読んできました。
おおむねわかったのですが幾つかはわかりませんでした。
副次管制なのですが、砲塔を方位盤に見立ててというのは砲塔にも射撃指揮をとるための装備一式があるということですし、これらに方位盤の役目をさせて砲塔内にある応急射撃盤Mk6ではなく発令所の射撃盤Mk8で射撃計算を行うという認識で良いのでしょうか?
また、対空射撃の際はMk37方位盤に連接するということですがこれも副次管制なのでしょうか?

Posted by Mk.63 GFCS at 2017年09月06日 09:48
Mk.63 GFCS さん

ご購入いただきありがとうございます (^_^)

>副次管制なのですが、

砲塔で目標の照準及び測距を行うことにより、その方位角、高角及び現在距離を方位盤から得られるデータの替わりに使用して射撃盤 Mk8 で射撃計算を行うと言うことです。

>対空射撃の際はMk37方位盤に連接する

副次管制というのは Main Battery System でのことですので、Mk37 はこのシステムには含まれませんが、対空・対水上のいずれの射撃においても、本来の “方位盤 Mk38 の替わりに使用する” ということでは広義の意味で副次管制ですね。


Posted by 桜と錨 at 2017年09月06日 15:40
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