海上自衛官、特に艦艇勤務の場合、任務行動中に家族などに何かあっても洋上からそう簡単に帰るわけには行きません。
ましてやいざと言う時には親の死に目に会えないこともあるということはよく判っていますし、その覚悟は出来ているところでもあります。
しかしです。 世間一般の普通の人達にとって、有事でもない災害派遣でもない、平時における訓練中などで、親 (や家族) が危篤の場合や死去した時に、海自はその息子 (今では、娘も、ですが) を返さないなどということがスンナリ理解してもらえるでしょうか?
私はそれを求めることは無理だと考えますし、逆にそれは世間の人達から海自に対して悪い印象しか持って貰えないことに繋がると思っています。
先に 「人事はヒトゴト」 と書きましたが、その意味において補職・補任などに限らず、どうも海自は人事全般について普段からの配慮が十分ではないように思います。
私の経験例から2つご紹介します。
1.海演中は親の死に目にも会わせない?
ご存じのとおり、海上自衛隊は年に1回有事を想定した大規模な演習、即ち海上自衛隊演習 (略して 「海演」 ) を実施します。 この期間中は余程のことが無い限り個人的な理由による休暇などは許可されません。
もちろん通常の訓練中などでしたら、予定を変更して近くの港に入って当該隊員を降ろすとか、機会があればヘリコプターで陸上基地まで運ぶなどのことはありますが。
ある年の海演のことです。 上級司令部から演習期間中は何があっても隊員の個人的理由では帰すことは許可しない旨の事前の “念押し” の指示が出ました。 つまり、親の死に目にも会わせない、ということです。
もしそのような可能性がある隊員がいるなら出港する前に降ろしておけ、と。 しかしながら、全てが事前に判るような事柄でないことは改めて申し上げるまでもないことです。
・・・・ で案の定、海演中に四国沖の太平洋を行動している時に私の分隊員のところへ父親からの電報が転電されてきました。
「ハハキトク、スグカエレ」
本人は長崎・五島列島の中のある島の出身で一人っ子でした。 本人を呼んで確認したところ、実家には両親二人で住んでおり近くに親戚などはなく、もし母親が亡くなった場合には父親一人で葬儀など全てをやらなければならない、とのことでした。
もちろん事前に本人を含め分隊の総員には上記の指示が出ていることは説明してあり、また海演中は行動海域のこともあってまず無理であると納得してもらっています。
・・・・ が、私は今ここで彼を帰さなければ、長い目で見ると決して将来の海上自衛隊のためにならないと考えたわけです。
そこで、飛行長のところへ行って 「何か陸上にヘリを飛ばす用事はありませんか?」 と聞いたところ、「急ぎではないので何時とは決めていないが、機会があれば物品の受領などの連絡便を出したいと思っている」 とのことです。
で、これを上手く利用しない手はない、と (^_^)
艦長のところへ行って事情を説明し、要務飛行は作戦の一貫として禁じられているわけではないのでこれに彼を乗せて帰したい、それなら上級司令部には特に説明する必要は無いのでは、と説得しました。
ついでに、今回彼を帰さなかったら、今後おそらく彼の島からは海上自衛隊への入隊希望者は出なくなるし、息子を海上自衛隊に入れたいと思う親はいなくなりますよ、と (^_^;
艦長も快く了承してくれましたので、飛行長と相談してその日のフライト便追加を決めました。
そして本人には、「大村まで送ってやれなくて申し訳ない。 ただし海演中はもう艦に戻ってくる機会はないので、海演が終わって艦が佐世保に帰港した時に戻ってくればいいから、その間にお父さんとよく話をして、今後のことも含めて実家のことをキチンとしてきなさい」 と言いました。
結局は残念ながら彼が帰り着いた時には既に亡くなっておられたのですが、それでも彼が艦に戻ってきた時には少しは落ち着いたというか、母親の死を受け入れるまでにはなっていたように感じられました。 そして父親から海自を辞めずに一生懸命やれと言われたと。
後日になって父親からも手紙が届き、息子を母親の死に目に会わせるために帰してくれたこと、それも洋上からわざわざ息子のためにヘリコプターを飛ばしてまでしてくれたことに対して海自に感謝し、かつ息子を海自に入れたことを誇らしく思う旨が書かれていました。
海演終了後に艦長が本件を上に話したかどうかは知りませんが、上級司令部の指示に反したことに対してその後何らのお咎めもお叱りもありませんでした。 もしかしたら艦長が自分の責任でやったことと、一人で収めてくれたのかもしれません。
もし仮にこのことで何らかの処分を受けたとしても、本件での艦長以下の対応はこれで良かったと今でも思っています。
人を育てることとはどういことか、そして海自は一隊員といえども大切にしていると世間の人に見て貰えるとはどういうことかと。
海演中に乗員一人を休暇で出したことやヘリを余分に飛ばしたことなどは、海自の中だけのホンの小さなことです。
しかしながら海上自衛隊の将来を考えるならば、こういう小さな積み重ねが大事なことなのでは無いでしょうか?
「人」 を大切にする。 それも隊員本人に対してのみでなく、その家族を含めて。 私はそう考えています。
(本件続く)
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親の死に目に (後) :