2016年12月07日

軍艦吉野か、巡洋艦吉野か


先月の 「加藤友三郎元帥研究会発起会」 において、加藤元帥の経歴に関連して英国で建造した 「吉野」 の監督官兼回航委員であり、初代の砲術長であったことから、これを紹介する時に 「軍艦吉野」 と 「巡洋艦吉野」 のどちらが正しいのかが話題になりました。

この時に私がお答えしたのは “両方とも正しく、どちらでもOK” ということでした。

これについて少し説明をしたいと思います。


明治23年度第1回帝国議会において協賛され裁可された24年度の海軍の新たな軍艦建造計画は、軍艦3隻 (3,500トン、2,500トン、750トン) で、これらは後にそれぞれ 「吉野」、「須磨」 及び 「龍田」 として就役することになります。

ここで当時の旧海軍における艦船の分類についてどうなっていたかですが、

後の時代のように軍艦を類別して一等・二等戦艦、一〜三等巡洋艦などのようになるのは明治31年のことで、これが後に 「艦船類別標準」 へとなります。


「吉野」 の計画〜就役の時期である明治24〜26年の当時は、明治23年に定められた 「海軍艦船籍條例」 (達291号) の時代でした。


これに基づき、国内建造の艦船は命名式、即ち進水式の時をもって、また国外建造の艦船の場合は引渡、即ち就役の時をもって、海軍艦船籍に登録されます。

したがって、「吉野」 は英国アームストロング社から引き渡された明治26年9月30日をもって海軍の艦船籍に編入され、第一種の軍艦となったわけです。 大日本帝国海軍の 「軍艦吉野」 です。

しかしながら、これは海軍における艦船の公式な区別、類別であって、「吉野」 がどういった艦船のタイプ、艦種のものであるかとは別のことになります。

明治24年に建造予算が成立した当時、この3,500トン型のものは海軍部内において 「二等巡航艦」 と呼ばれていました。

この 「巡航艦」 というのは本家サイトの 『懐かしの艦影』 コーナーで公開している旧海軍の公式写真帳 『大日本帝国軍艦』 及び 『大日本帝国軍艦2』 にある要目表でも使われているとおりです。

もちろん「巡航艦」とは、世界共通的な (というより手本たる英国での) 呼称である 「Cruiser」 の当時の日本語表記です。

そして、これの建造が英国に発注され、次第にその姿が明らかになるに連れ、英国における艦艇の状況についても情報が入ってきた結果、旧海軍での呼び方も少しずつ変わっております。

即ち当初は 「巡航艦」 の内の 「二等巡航艦」 であったものが、アームストロング社との建造契約の段階で 「迅速鋼鉄防禦巡航艦」 という表現となり、明治25年半ば頃から現在の用語である 「巡洋艦」 というのが文書上に出始めます。 これにより 「迅速防禦巡洋艦」 なども使われるようになります。

そして25年8月の命名時には単に 「巡洋艦」 とされています。

Yoshino_meimei_01.jpg

( 旧海軍部内においては、この明治25年半ば頃に従来の 「巡航艦」 という用語が正式に 「巡洋艦」 に換わったと判断されます。)

これを要するに、帝国海軍艦船籍の艦船としては 「軍艦吉野」、艦種としては 「巡洋艦吉野」 ということで、どちらも正しいことになります。


なおついでですので 「吉野」 に関連して、例えば次の写真などは故福井静夫著 『海軍艦艇史2』 にも掲載されているものです。

Yoshino_fukui_01_s.jpg

そのキャプションに

“日清戦役当時の世界最優秀巡洋艦の勇姿を示し、以来、内外に著名の写真である”

となっていますが、残念ながらこの写真は後からコントラストを強調した上で軍艦旗などが書き加えられたものです。

この写真のオリジナルは本家サイトの 『懐かしの艦影』 コーナーで公開しているとおり、明治26年9月の全力公試時のもので、艦橋付近に安社の技師などが写っています。

Yoshino_trial_0rig_01.jpg

Yoshino_trial_0rig_02.jpg

流石に海人社の 『世界の艦船』 は、「日本巡洋艦史」 や 「日本軍艦史」 などでもこのオリジナルと同じものを掲載し、きちんと解説が付いていますね。

posted by 桜と錨 at 20:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 海軍のこと
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