2016年05月24日

錨と錨鎖の話し (9・補)


捨錨準備の補足

HN 「きのけんさん」 から前回の捨錨の話しに関連して次のような補足質問をいただきました。

駆逐艦の錨を引き上げられるワイヤの直径となるとどのくらいになるのでしょうか。
また、図にあるワイヤと丸材との締結部は捨錨時に順次勝手に切断されていくよう、ワイヤよりも強度の弱いシュロ縄などで締結されているのでしょうか。


事前に捨錨準備を行う余裕がある場合には、すでに荒天錨泊として十分な長さの錨鎖 (一般的には 4x水深(m)+145m) を出しておりますので、収錨時にこの鋼索に直接錨の重量がかかるようなことはありません。

したがって、鋼索にはこの錨鎖を引き揚げるのに必要な強度が求められます。 旧海軍においては通常は錨鎖2節 (50m) 程度に耐えられるものとされています。

これは錨鎖の1節の重量と鋼索の強度から簡単に計算することが可能ですが、一般的には更に簡単にして、軽巡程度以下の艦艇においては錨鎖の径に応じて次表のものを用いることとしていました。

shabyou_03.jpg

特型駆逐艦等でも錨鎖径は40ミリ程ですので、24ミリ以上の鋼索を使用することになります。


鋼索を綰ねて外舷側に用意した円材に順次 「雑索」 と呼ばれる麻索の細索で固縛していきますが、この結び方は 「曳索結び」 と呼ばれるものです。 ただし、商船などで用いられるものとは少し異なり、「ふた結び」 と 「ねじ結び」 とを組み合わせた特種なものです。

shabyou_04.jpg
(ちょっと綺麗な図がありませんので (^_^; )

shabyou_05.jpg    shabyou_06.jpg
( ふた結び )      ( ねじ結び )

shabyou_07.jpg
( 一般的な曳索結び )

捨錨時には前甲板指揮官の 「スリップやれ」 の号令によりスリップを切る (ハンマーで掛け金を外す) のと同時に最初の2〜3ヶ所をナイフで切り、あとは鋼索の走出状況を見ながら、次々と切っていきます。

もちろん、鋼索の張力がかかった時は自然に切れますが、この場合円材などを壊すおそれも出てきます。

この固縛索を切るのも危険な作業になりますので、熟練の運用員や砲術科員(通常は前甲板の作業員)が当たりますが、スリップ操作とともにいつも緊張する瞬間です。

なお、上記の鋼索を使用しますので、示錨浮標索もこれを引き揚げるためにそれなりのものが必要になることは申し上げるまでもありません。

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前 : 「錨と錨鎖の話し (9)」

posted by 桜と錨 at 14:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 海軍のこと
この記事へのコメント
大変良く解りました。
本当に有難うございました。

本などでは「捨錨をして」など
簡潔に表現されますが、作業一つ一つが
危険で、いろいろなディティールをもっている
ことに今さらながら感じさせられるものが
あります。
実際、艦艇の運用は様々な細かい行動を
伴うものと思いますし、私はそこに大きく興味を
持つのですが、残念ながらその辺りは
あまりにも日常の中にあるため、体験的著作では
省かれてしまっており、また、資料的な本では
取り扱われることも少なく、知ることがなかなかに
出来ません。ですのでこのように細かに説明して
いただけることは本当に幸いです。

また何か質問させていただくことがあると
思いますが、申し訳ありません、その時は何卒
よろしくお願いいたします。
失礼します。
Posted by きのけんさん at 2016年05月24日 23:16
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