2016年03月16日

弾道弾の飛翔技術の基礎 (2)


1.ロケット推力による飛翔段階 (Powered Flight Phase)

弾道弾打ち上げの第1段階は、地上の発射機からロケット推進により大気圏外まで打上げて、所定の速度で所定の弾道軌道に乗せる (= ロケット・エンジンの燃焼終了) までの期間です。

この第1段階は、更に次の3つの段階に細分されます。

     発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)
     無揚力飛翔 (Zero-Lift Flight)
     定姿勢飛翔 (Constant Attitude Flight)

BM_powered_flight_01.jpg
( 図 : Typical powered trajectory for IRBM )

(1) 発射と垂直飛翔 (Launch and Vertical Flight)

飛翔距離が短くその大部分が大気圏内であるSRBMを除くと、基本的にIRBM以上の弾道弾は地上の発射台から垂直に発射され、引き続き短期間そのまま垂直に上昇します。

そこで前回お尋ねしたこの “何故垂直に打ち上げるのか” ということです。

これについては多くの場合、大気圏を早く抜けて空気抵抗を受けることのない真空弾道 (放物線) 軌跡に乗せるためため、という説明が見受けられることをご存じの方もおられると思います。

確かにこれも正解の一つではあります。 しかしながら、本当の理由は次の3つの方がより重要なのです。


まず一つ目が、空気抵抗と燃料の関係です。

ロケットに搭載すべき必要な燃料の量は、速度と飛翔距離、そして弾道弾の打ち上げ重量に比例します。 そしてこのいずれにも大きく影響するのが空気抵抗です。

このため、空気密度が濃い、即ち空気抵抗が大きい地表近くを可能な限り早く抜けるために垂直に打ち上げることが求められます。

これによって燃料の量を少なくて済むようにし、かつ打ち上げ重量を減らすことができます。 そして空気による摩擦熱の影響を最少にすることができます。

逆に、もし打ち上げ重量を同一とするならば、燃料の必要量を減らせればその分より大きな搭載物 (payload) を積むことが可能になることを意味します。


二つ目が弾体の構造の問題です。

可能な限りペイロードを大きくし、かつ打ち上げ重量をできるだけ小さくするためには、弾道弾の弾体構造そのものを可能な限り軽くする必要があります。

このため、弾体の弾軸 (縦) 方向の強度は高く、横方向の強度は比較的低くして限定的な耐加重の範囲で設計されることになります。

そして、これを垂直に打ち上げることによって、荷重や空気抵抗、重力を弾軸方向で受けることでこれに対処することが可能になります。


そして三つ目が発射機の問題です。

弾道弾が大きくなればなるほど、発射機の構造が複雑となり重量が増えます。 これを最少に押さえるためには、弾道弾を垂直に保持してこの状態から打ち上げることです。

言われればすぐに納得できることばかりですが、これらの理由をキチンと整理して説明しているものは少ないですね。


この垂直発射方式ですが、発射機に垂直に置かれるが故に弾道弾の全重量は下の発射台 (Launch Pad) で支えられ、かつロケット・エンジンに点火後、推力が十分なレベルに上昇するまでの間、発射台により弾道弾の下部を拘束するようになっています。

そしてこの垂直発射において最も重要な点は、ロケット・エンジンに点火直後の速度がまだゼロに近い最初の数秒間、弾道弾の姿勢を垂直に保たなければならないことです。

これは、発射時の弾体の横方向に加わる外力、例えば突風による偏位や傾きなどに対して、エンジン後部に取り付けた偏向板 (deflecter vanes) を操作してロケット噴射の流れの向きを変化させ、あるいはロケット・エンジンそのものを垂直に保つ機構にすることにより、弾体の縦軸に対する推力方向を変えて弾体の姿勢のバランスを取ることで制御します。

弾道弾によっては、これに加えて小さな補助ロケットを装備して、これにより一時的なサイド・スラスターとして使うものもあります。

これらによる姿勢保持は弾道弾の制御システムによって自動的に行われますが、打ち上げ重量が大きくなればなるほど高度な技術を要することはお判りいただけると思います。

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前 : 弾道弾の飛翔技術の基礎 (1)

次 : 弾道弾の飛翔技術の基礎 (3)

posted by 桜と錨 at 13:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 現代戦のこと
この記事へのコメント
MTC勤務時読んだりしましたが、こ説明はよく分かりました。この様なことを知っていて打ち上げを観るとまた違うでしょう。有難う御座いました。
Posted by 衣笠昌和 at 2016年03月16日 20:33
衣笠さんにはこの程度ではとても物足りないでしょうが(^_^)
でも一般向けでこういうまとまった情報は意外と見当たらないんですよね。
Posted by 桜と錨 at 2016年03月17日 12:08
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