2015年06月29日

防衛医科大学校とその卒業生達 (1)


先日中東でテロに遭遇した日本女性の一人が実は無届け海外旅行中の現職自衛官であり、かつその女性のメディアに対する対応振りから、批判の声が揚がっているとマスコミで報じられているようです。

しかも “ 「これが陸自3佐か、情けない ・・・・」 防衛省が嘆いた” などという見出しまで付けて。

確かに無断渡航という規則違反はそのとおりですから厳しい措置は必要でしょうが、しかし “情けない” と言われているメインはこのことではありません。

そこでFBでのとある方の記事に “そんなことを言っても” とコメントさせていただきました。

要は、自衛隊の医官に一般幹部自衛官と同じ自覚と振る舞いを求めても、彼 (彼女) 等自身が防衛省・自衛隊においてその様な育て方をされていないのだから無理がある、というものです。

ましてやもし上記のタイトルが事実だとすると、防衛省の役人達は自分達がやっている自衛隊医官養成の実態について一体自覚があるのだろうか? と疑問を持たずにはおられません。

そこで、防衛医科大学校とその卒業生について、一般の方々にあまり知られていない、というかちょっと誤解があるようですので、その実状について元自衛官という立場から少しご紹介をすることにします。

もちろん、私が見聞きしたことに基づく、個人的な独断と偏見ということで (^_^;


◎ 防衛医科大学校について

まず、防衛医科大学校についてどのようなところなのかをお話しします。 と言っても、現在では少し変わってきておりますので、彼女が在学していたであろう十数年前当時のこと、という前提で。

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( 現在の防衛医大の敷地全景  元画像 : Google Earth より )


1.学校組織

皆さんご存じのとおり、防衛医科大学校は慢性的な医官不足に悩むむ防衛庁 (当時) が自前でそれを養成すべく昭和48年に設立したもので、所沢にキャンパスを構えています。 ここには大学校と共に、その付属病院と高等看護学院が併設されています。

(高等看護学院は平成25年度をもって採用中止、現在では新たに看護科が新設され、技官コースと自衛官コースの2課程となっています。)

西武航空公園駅から徒歩5分ほど、所沢航空公園に隣接する市街地にあり、敷地は周囲にコンクリートなどの塀があるわけではなく、正門などに警衛がいるわけでもありませんので、建物内は別として敷地への一般の人の出入りは自由ですし、逆に教職員はもちろん本科医学生達の出入りも自由 (な環境 (^_^; ) です。

現在の同校の概要などは次のところを参照して下さい。

「防衛医科大学校」 公式サイト :

防衛省・自衛隊における防衛医科大学校の所掌は内局の人事教育局です。 したがって、直接担当するのはもちろん自衛官ではなく官僚です。

学校長は創立初期を除き通常同校の教授である医師の中から選ばれています。 その下には教育、診療、管理を担当する副校長3人が置かれ、前二者は医師、管理担当は防衛省のお役人です。

( これに平成19年になって防衛大学校に倣って副校長と同等格の空将の幹事が置かれ、初代は群馬大学出身の医師、2代以降は本校の卒業生が補職されていますが、それ以前の制服のトップはまだ一佐の学生部長でした。)

当時、付属病院と高等看護学院も含めた同校の教職員の総数は約1200名でした。 この内現役の自衛官は学生部の部長以下24名の他は、講座を持たない (持てない) 医学研究センターの教授などと教務課勤務の10名足らずです。 即ち、全教職員の97%が自衛隊・自衛官とは縁もゆかりもないという組織なのです。

もちろん学生部の現役自衛官全員が同校の卒業生ではありませんし、ましてや自衛隊医官でもありません。

そして学生部長及び3人の課長職 (一佐) と言えども学校運営のメインの一つである教授会にはメンバーとして出席できません。

( 当時は課長職として学生課長、訓練課長、主任指導官の3つでしたが、現在では主任指導官ポストが無くなり前2者のみとなっています。)

また、同校で講座を持つ教授陣には規則上現職の自衛隊医官のままではなれません。 もし同校卒業生が自分の母校の教職に就こうと思えば、まず先に制服を脱ぐしかありません。

このため英語などの一般教養科目を除き、教授陣は全て外からの医師・技師で、当然ながら自衛隊医官がどうあるべきかなどには知識も経験もなく、関心もありません。

ただただ医師として学生 (本科、初任研修、専門研修、研究科) に所掌分野の医学教育を施し、かつ学者・研究者としての自己の業績UPを図るだけです。 それが職責なのですから当然のことで。

ましてや管理担当副校長を始めとする学校本部の事務方には、自衛隊医官はもちろんのこと、自衛官についてさえ判る訳がありません。


2.高等看護学院

看護学院ですから当然ながら看護師を養成する学校ですが、卒業後に防衛医大の付属病院で勤務させるためのものではありません。

したがって、看護学生の身分は定員外の防衛庁職員で、学費はタダ、かつ3年間学生寮に居住し食事も支給されますがこれは平日のみ、土日は外に下宿などをとり、かつ食事もないという待遇です。

その代わり卒業後に付属病院に勤務する義務はなく、全国どこに就職しようとも全くの自由です。 もちろん空きがあれば希望者の一部は同病院に採用されますが、卒業直前に受けた看護師試験が採用後になる結果発表で不合格となった場合は、採用取り消しで路頭に迷うことになります (^_^;

当然、看護学院の教職員は自衛隊とは縁もゆかりもない人達です。

その看護学院の学生寮は本科医学生の学生舎から150mほど離れたところにあります。 途中に塀やフェンスなどがあるわけではありません。

看護学生達はこれも当然ですが病院で医学生達と顔を合わせる機会も多いです。 そしてなりより、クラブ活動は医学生と一緒の部がいくつもありますし、ほとんどの部のマネージャーを務めます。 また、「並木祭」 という毎年の学園祭なども一緒に開催します。

これで医学生と看護学生が “仲良く” ならないわけがありませんし、将来の “お医者さん” の卵ですから、看護学生達も放っておくはずがありません (^_^)


3.付属病院

付属病院は、一般市民の診療や入院治療を受け入れており、というよりわざわざ所沢まで出向く自衛官などおりませんので、本科医学生や研修医の実習のためにはこれしか無いわけです。

したがって勤務する看護師や事務職員なども、全く防衛庁の病院という意識も、そして自分達も自らが “自衛隊員” であるという自覚もありません。 当然の成り行きです。


と言うわけで、防衛医科大学校というところは学校自体はもちろん付属病院も看護学院も、またそこで勤務する教職員も、そして実習対象である患者側も、自衛隊色など全く無く、一般の医大・医学部と何ら変わるところはありません。

このような環境の中で、本科医学生に一体どうして “医師たる幹部自衛官” の卵としての自覚が育つと?

( この項続く )

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防衛医科大学校とその卒業生達 (2) :
posted by 桜と錨 at 18:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 気ままに
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