2015年04月20日

大空への追想 (253)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第7章 特別手記 (承前)

    第3話 奇跡の生還 (承前)

〇 遂に会敵 !! 捕らわれる

海岸を彷徨っているうちに、薄黒い肌をした中年の原住民2名に出会った。 一瞬緊張したが敵意は感じられなかった。 彼らは手まねで、食べ物をやる、薬もやるからついて来いと言っているのである。

みんなで相談をした。 島に着く時に一同が腹を決めたとおり、いざという時には無手勝流で戦って死ぬだけである。 少し怪しいという心配はあったが、とにかくついて行くことにした。

考えてみると、これが捕虜という苦しみを味わう発端となったのではあるが、今日まで生を維持する切っ掛けとなったことも事実である。 まさに運命の分かれ道であった。

喜びと不安の入りまじった気持ちで彼らについていった。 這ったり転倒したりしながら、どのくらい進んだことだろうか、内陸に入りかけたと思った時、突然四方から濠州兵が銃剣を構えて躍り出て来た。 ぐるりと四方を取り囲まれた。 その数は5〜6名である。 今にも発砲しそうな気配であった。

反撃に出る暇もなく、その力さえなかった。 霞む両眼で睨みつけ、“ここを射てッ” と胸を開いて突き出して見せた。 万事休す。 次の瞬間起こるであろう銃声を予期しながら瞑目した。

しかし一向に射ってこない。 二人の原住民案内者は濠州兵から謝礼を貰って姿を消してしまった。 不覚にも敵の罠にかかったのである。

敵兵の銃剣に追われるようにして、引っ張られ、後から押され、しばらく山道を進んで倉庫らしい建物の中に閉じ込められた。 いよいよ今夜が銃殺だろう。

10日間の死の彷徨の虚しさをしみじみと考えてみた。 既に俎板の上の鯉である。 日本軍人として絶対忠誠を誓ってこれまで生き抜いて来たからには、決して見苦しいことはすまいと一同心に固く誓い合った。

追い込まれた倉庫をよく見ると、メリケン粉が格納されていた。 飲料水はない。 便所の手洗鉢にわずかばかりの水があった。 この水でメリケン粉をこねて食べた。

少しは腹がおちついたので、袋の上に寝ころんだ。 銃殺覚悟の最後の睡眠である。 余り遠くないところで、飛行機の爆音が聞こえていた。 仮設飛行場でもあるのだろう。

突然大勢の兵士たちがドヤドヤと入って来た。 5人を後ろ手に縛りあげ、目隠しをした。 いよいよ刑場行きだなーと覚悟した。

前から手を引かれ、後ろから尻を叩かれて倉庫を出た。 どこまで行くのだろうか、大分歩いた。 ガヤガヤと人声が増えて来た。

「 早く射ち殺せッ 」

と怒鳴ってみたが、通ずるはずもなかった。 そのうち何かの中に押し込まれた。  感じで飛行機だと分かった。 エンジンが起動され、動き出したなーと思っているうちに間もなく離陸した。

さては空中から海にでも突き落とすつもりだろうと覚悟を決めていた。 “もうどうにでもなれ” いささかやけになった。 しばらく飛んだと思う頃、着陸態勢に入ったことが分かった。 どこだろうか。

飛行機から降ろされると、今度は自動車に乗せられた。 やがて車から降りると初めて目隠しを取られた。 兵舎らしい建物の中に連れて行かれたが、大勢の陸兵が右往左往している。 どうらやら濠州本土内の大きな基地らしかった。

そこはポートダーウィンだったのである。
(続く)

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