2015年04月06日

大空への追想 (248)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第7章 特別手記 (承前)

    第3話 奇跡の生還 (承前)

〇 当時の戦況

太平洋戦争緒戦期における海軍航空隊は、まさに世界に敵なしの勢いをもっていた。 南進また南進で開戦後2か月を経た17年2月には、海軍基地航空隊の最前線は、ボルネオ、スマトラ、ジャバ、ラバウル、外南洋まで進展していた。

濠州方面の作戦に絞って見ると、濠州北方のチモール島を17年2月20日に攻略することを目標として、前日の19日には機動艦隊をアラフラ海に進出させて濠北の要衝ポートダーウィンを空襲し、チモール島の背後を絶つべく作戦計画を巡らせていた。

基地航空部隊の主力十一航空艦隊の二十一航空戦隊を主体として編成された第一空襲部隊 (中攻、零戦 (鹿屋空支隊、一空及び三空支隊)、大艇 (東港空)) は、2月6日、ジャバ攻略戦に協力しつつ、セラム島アンボン基地 (注) に集結し、チモール海、アラフラ海を制圧して濠州作戦を開始した。

攻略目標日の2月20日には、海軍落下傘部隊がチモール島の陸上飛行場を占領するのであるが、東港空大艇隊は、アンボン進出後息つく間もなく濠州北岸海域に索敵網を張り巡らしていた。

17年2月16日、二十一航戦は次のような軍司令部情報をキャッチした。

「 チモール島防衛に躍起となっている連合軍は、ポートダーウィンに集結し、大規模の輸送船団が近々チモール島増援のため出港する気配濃厚である 」

この情報をつかんだ二十一航戦の精鋭は全力攻撃の態勢を整えて待機し、まず大艇隊がその尖兵となって船団索敵の行動を開始した。


〇 索敵隊発進す

17年2月15日 (シンガポール陥落の日) 0200、九七大艇3機が索敵出発の準備を急いでいた。 二番索敵線を担当する三浦機は、搭乗員交代等のため、この日は新編成で初陣であった。

機長は飛行艇操縦の神様と言われる中の一人、三浦特務中尉、副操は島田二飛曹、偵察員平山一飛曹、高原一飛曹、電信員沖本一飛曹、七島一飛、搭整員古川二整曹、天本三整曹の計8名が搭乗していた。

いつものとおり洋上係留のままエンジン起動に取りかかったが、4発ともなかなか起動せず、クルー達は翼上に上がり、汗まみれになってエナーシャを手回ししたがそれでもだめ、南海の夜空には無数の星が美しく輝いていた。

気は焦るばかり、僚機は 0300 前後に先を争うように出発して行った。

指揮所から代機を指令されたが、なんとかこの愛機で行きたいと懸命に努力した結果、約一時間遅れの 0400に アンボン湾の波を蹴ったのである。

美しい星空も消え、東の空は既に白みかけていた。 日の出が始まった。 黄金色の雲海が実に美しかった。

汗だくの飛行服も冷たく感じてくる頃、何一つ見えない青い海が雲の切れ間から広がってきた。 南海特有の白い雲が音もなく機体を撫でてゆく。

やがて右下方に、チモール島が接近してきたが、間もなく後方に遠ざかっていった。 機内は次第に殺気が漲ってきた。 全機銃配置に就き、海と空に警戒の眼を集中させていた。

前方遥かに濠州の北岸がうっすらと見えてきた。 時計は午前10時を指していたが、基地からも僚機からもなんら連絡はなかった。 やがて右旋回し第二コースに入った。 左側に濠州海岸が割とはっきり視認できた。

「 敵船団ッ !! 」

突如副操が叫んだ。 彼は左前方を指さしている。 見える!! 見える!! 大型巡洋艦を先頭に、駆逐艦2隻、大型輸送船4隻が、輸型陣で西に向かっている。

「 敵輸送船団見ゆ、ダーウィンの西100浬、針路270度、速力12ノット、晴、雲高3千米、視界20浬、1100 」

作戦特別緊急信が全軍の耳を鋭くついた。 三浦機長は直ちに上昇し、高度4千米の雲上に出た。 一旦視界外に去って隠密触接の態勢に入った。

248_01.jpg
( 原著より  位置関係略図 )

軍令部の情報は適中した。 チモール島上陸を企図する船団に相違ない。 アンボン基地は沸き立った。

“ よーし、やったッ、 うまく触接してくれよ。 明日はチモール海の真っただ中で藻屑にしてくれるぞッ ”

戦機到来、二十一航戦は翌黎明時これを捕捉撃滅する計画をたてて腕を撫でていた。

私は一人気になって仕方がなかった。

“ 三浦機は初陣だ。 位置から見ると、どうも深入りしすぎている。 戦闘機を誘いこまなければいいがなー ”

その時である。 「ヒ」 連送が耳をついた。 私の心配は現実となってしまった。 予想もしないことが現場では起こっていたのである。

どうしたことか、三浦中尉は隠密触接を止め高度4千米のまま船団上空に引き返して六十キロ爆弾を一発見舞ってやると言い出したのである。 歴戦のクルー達はビックリした。

“ 敵発見後3時間近くもせっかく隠密裡に触接できていたのに ・・・・。 機長は何を考えたのだろうか。 このままそっと敵から離れるのが嫌なのか、初陣の初手柄で触接機の任務をはき違えたのか、飛んで火に入る夏の虫だ ・・・・”

しかし、高原兵曹にはもはや機長をなだめる余裕がなかった。 そして爆撃効果確認のため、写真機を握って左スポンソンにしがみついていた。

機の前後左右がたちまち猛烈な弾幕に覆われた。 機長は決死の突入を続けた。 平山兵曹の爆撃針路修正の声が耳をうつ。 やがて投下、同時に右急旋回し全速で避退した。

幸いに弾幕は突破できた。 しかし、せっかくの隠密触接もこれで完全にパーだ。 大艇は既に袋の鼠となってしまったのである。

基地も慌てた。 戦闘機に食われることは明らかである。 これで敵船団は引き返してしまうだろう。

敵にしてみれば、明日の行動海域はダーウィンからの戦闘機行動圏外になるし、日本軍の空襲も必至である。 これでも強行策を採るとすれば敵の指揮官は馬鹿野郎だ。

それにしても三浦機はなんてことをしてくれたのだろう ・・・・。 とにかく早く逃げてくれと祈るのみであった。
(続く)

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(注) : アンボンの陸上航空基地については本連載の第73回のところで、同じく水上機基地については第83回のところでそれぞれご紹介しておりますのでご参考にして下さい。


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