2015年03月28日

大空への追想 (246)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第7章 特別手記 (承前)

    第2話 メレヨン島不時着、58日間の飢餓道 (承前)

〇 あとがき

この手記は、人間の本能をむき出しにして飢餓にあえぐメレヨン島守備隊の実情を暴こうとするものではない。 南海の孤島で、補給路を絶たれ、餓死寸前の窮状に追い込まれながらも守備隊の使命を果たしながら倒れてゆく悲壮な実態を知ってもらいたいために書いたものである。

20年3月11日の夜半、突如二式大艇が舞降りたことは、メレヨン島にとってに一大ハプニソグであった。

守備隊は、本来の任務地であったからこそ飢餓の島でも必死になって戦っていたのであるが、十数時間前までの娑婆の生活から、一挙に飢餓に襲われている地獄島に飛び込んで来ただけに、想像に絶する衝撃を受けたことは事実であった。

メレヨン島守備隊にしてみれば、久し振りに内地からの来客であったはずだが、何一つ歓待するすべもなく、食糧に余裕が全くなかったために、梓隊員も早速自活せざるを得なかったのである。

馴れない農耕と、わずかばかりの悪条件下の土地を割り当てられ、栄養失調に苦しみながら、人智の限りをつくして生き抜いてきたのである。 生き抜いてきたからこそ、彼らの語ってくれたこの手記が貴重なものなのである。

恐らく日本全土が大災害にでも襲われない限り、こんな苦しみは味わうことができないであろう。

しかし空に生きる者達にとっては、連絡の方法もなく、洋上遠く不毛の孤島に不時着することもあるだろう。 その時にこの手記はなんらかの参考になると思う。

日本は現在余りにも平和過ぎる。 世界のどこかではいまだにメレヨンの地獄生活に近い苦しみを味わっているところがあると思う。

幸いにして生還できたメレヨン守備隊の森軍医官は、メレヨン島の状況を “極限の医学” という見地から把握されている。 戦争の悲劇でなくて何であろう。

このように、人間生きるための最低条件を更に超越して苦しみながら、メレヨン島守備の任務に倒れていった隊員達を思えば、激しい敵弾の中をくぐり抜けながら自爆していった搭乗員達の方が遥かに幸福だったと思うのである。

いつだったか、私はテレビで “米国の評価する零戦” という番組を見たことがある。 米海軍の従軍パイロットが次のようなことを語っていた。

「 日本の零戦も、搭乗乗員も確かに優秀だった。 ただ日本は余りにも搭乗員の生命を粗末にしていた。

我が F6F (米海軍戦闘機)は、パイロットを護るために、性能を犠牲にして防弾装備をしていたのに対して、零戦は性能を重視して極力自重を軽くするために、パイロットの防護を考えていなかった。

パイロットは自らを護るためには、戦闘技量を向上させる以外になかったであろう。 “大和魂” という神がかりの指導理念だけで人間の生命は護り得ないはずである。」

この言葉は (私) 筆者の心を痛打した。 メレヨンの飢餓と、零戦の防護装備とでは直接比較するわけにはゆかないが、人命軽視という点では相通ずるものがある。

太平洋戦争においては、日本軍の太平洋離島進攻はまことに迅速であった。 しかしこれら離島に対する補給支援の面では、米軍のそれに比べた場合とても足元にも及ばなかった。 極めて弱体であったと言える。

離島攻略はただ戦線を拡大するのみで、補給路を絶たれた後の守備隊は島流しの囚人にも等しかったと思う。 防衛どころか、自分の生命を繋ぐに精一杯であったろう。

零戦に対するアメリカ人の批判も、日本人はなぜ命を大切にしないのかという点にある。 同じ命を粗末にするにしても、飢餓だけは人間生存の根本を覆すものであり、そこには大和魂など生まれてくるはずはない。

南洋の孤島メレヨンに倒れた幾多の将兵の霊に謹んで合掌するとともに、このような事態が再び起こらぬよう “備えあれば憂いなし” という古人の金言を国民全体が心の奥に深く叩き込んでもらいたいと祈るものである。

(原注) : メレヨン島不時着搭乗員12名は、内地帰還後再び戦列に加わり奮戦したが、戦後、河野上飛曹 (当時の階級) が故人となっている。

なお、当時の12名は次のとおりである。
    (機長) 小森宮少尉 (偵察)
    (操縦) 長峯上飛曹、安井上飛曹
    (偵察) 河野上飛曹、大橋一飛曹
    (電信) 高橋上飛曹、坂元一飛曹
    (電探) 遠藤少尉、本山上飛曹、吉田二飛曹
    (整備) 渡辺一整曹、氏田一整曹
(続く)

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