2014年11月12日

大空への追想 (214)

著 : 日辻常雄 (兵64期)

第6章 海上自衛隊の巻 (承前)

    第3話 PX-S誕生記 (承前)

        その6 外洋運用試験

PX-S社内飛行試験の焦点は、やはり外洋発着にあった。 これだけは、UF-XSによっては見届けることはできなかったのである。

航続力わずかに4時間たらずの試験機では、せいぜい佐世保港外平戸の沖くらいが試験海域とならざるを得なかった。

私は実験報告に次ぎのような意見を述べておいた。

「 UF-XSは、波高1.8米、風速30ノットまでの離着水実証はできたが、航続力の関係で、外洋における試験は実施できなかった。 希望としては、波高2.0米以上に挑み、風波とうねりの交差する海面での離着水を実験したかった。 この試験だけはPX-S 一号機に課せられた重要課題である。」

PX-Sの宿命ともいうべきこの試験は、波高3.0米に挑まなければならないのである。

43年4月15日から4月26日までの間に、条件に適した海域を5日間選出して荒海試験を実施したのである。 パイロットはもちろん、艦上の観測員も、まことに真剣そのもので、この試験終了までは安眠できなかったくらいであった。

5日間で延べ16回の離着水を実施したが、4段階に分け、波高1.5米から4.0米まで実証したのである。

パイロットにしてみれば、初日は小学校、次の日は中学校、次が高校、最終日は大学、毎回受験の連続のような緊張と努力に縛られたものである。

結果としては波高1.0米から4.0米、風速8ノットから30ノットまで、故障もなしに実証できたのである。 この事実は読者諸君にも評価してほしいと思っている。

私にとっても、大村空でのUF-XSの実験飛行において残されていた最大の課題がPX-Sによって実証されたことは、生涯のよき思い出として残ると思っている。


ここに荒海試験中のエピソードを少しあげてみたい。

(1) 外洋発着に関する当時の論議

PX-Sは波高3.0米、風速25ノットの海面において、正常な操作をする限り安心して離着水ができることを目標としていた。

少しくらいへマをやっても大きな損傷は起こらないのだ、というのが我々運用者の了解事項であり、波高というものについてはそれほど深い関心は持っていなかった。

技術者の言う波高3.0米というのは有義波高であり、最高4.0米、最低2.0米程度のものが含まれている数字なのである。

このような海面で正常な操作をするためには、パイロットの練度は最高のレベルが要求されるはずであり、海軍飛行実験部のテストパイロットは確かにそのような技量の持ち主でもあった。

(原注) 有義波高 : 風によって起こされる波はいわゆる不規則波であって、波高や周期にはかなり大きなばらつきがある。 このような水面の波高の代表値として用いられるのが有義波高であり、連続した例えば百個の渡のうち、高い方から上位三分の一の波高を平均したものである。

我々運用者側の意見は次ぎのようなものであった。

波高3.0米の海面において、どこに着水しようが心配のないPX-Sであって欲しい。 が海は生きている。 千変万化の波が起こる。 いかに高練度のパイロットといえども、そのような海面で技術者の希望するような完全な着水姿勢を維持するということは望むべくもないことである。

運用者に必要な波高は有義波高ではなく、着水しようとする海面内の最高波高である。 そのような高い波のある海面に安全に着水するためには、いかなる着水針路を選ぶべきか、波のいかなる面に接水すべきかがキーポイントである。

わざわざ波頭にぶっつけて破壊試験をやる者はいない。 しかし人間のやる操作である。 いかなる理由で最大波高にぶちあたってしまうかは分からない。 そのような場合でも、搭乗員の生命を守り、なんとか飛行機を助け得るだけの強度は必要である。

一方外洋着水の目的はソーナーオぺレーションにある。 ソーナーオペレーションができないような海面にあえて着水する必要はない。 ただ外洋着水の練度向上のためには積極的に荒海に挑む必要がある。 機体強度はこのような運用者の要求に応じ得るものでなければならない。

と、このような論議が盛んに行われていたのである。 (十数年前の話である)
(続く)


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