何か気忙しく、相変わらずブログもなかなか更新できませんが (^_^;
これもちょっと遅くなりましたが、(株)ワン・パブリッシングさんから 「歴史群像」 8月号が届きました。 今月の特集は 『日本海軍』 です。
そして、
創刊30周年記念号として昭和15年に海軍省監修により増補改訂版が出された 「青年学校 海軍智識」 の抜粋復刻版が付録 として付いています。
私はこの付録の解説を書かせていただきました。
『 海軍省監修 「海軍青年学校 海軍智識」 抜粋復刻版について 』ただ、割当が1ページ弱でしたので、元々の原稿を大幅に削らざるを得ず、ちょっともの足りず判り難いかな、と (^_^;
そして、この 「青年学校 海軍智識」 は本誌の付録とする関係で、若干の頁(章)を省いたものとなっており、このため “抜粋復刻版” となっています。
ただし、この昭和15年版は国立国会図書館ディジタルコレクションの次のところで全文が公開されておりますので、省かれた頁についてはこれをご参照いただければよろしいでしょう。 もちろん、こちらは画像が荒いので少々見難いですが。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1456565この海軍省監修の 「海軍智識」 は昭和15年の改訂版ですので、タイトルの冒頭が 「青年学校」 となっておりますが、次の昭和17年に出された最後の改訂版ではこの 「青年学校」 というのが外され、かつその意図する対象が拡大されまして、その序が次のように変わっております。
『本書は師範学校、青年学校教員養成所、青年学校及び国民学校用として海軍に関する事項を極めて常識的に説述したるものなり、能く本書を熟読して一層海軍智識の啓発に資せんことを望む。』
即ち、昭和17年の改訂増補版では、対象をこの青年学校から更に広げたもので、高等学校や大学、専門学校などに進む者を除く全ての青少年を含めました。 これはおそらく長引く支那事変と来るべき米英との戦争を視野に入れたためと考えられます。
この
昭和17年の最終改訂版については、私の本家サイトの次のところでその全文をPDFファイルで公開 しております。
http://navgunschl2.sakura.ne.jp/tenji/09-chishiki.htmlこの 『海軍智識 』は、元々が青年学校におけるテキストで、海軍についての初歩的な軍事教育のためのものではありますが、要するに海軍が作成した “広報誌” でもあります。
国民皆兵の制度の下で20歳になった時に徴兵検査を受けることになる青少年に対して、その徴兵検査合格の結果を受けてその後の徴兵で陸軍に行くか海軍の方が良いのか、あるいは志願して20歳以前に様々なコースで海軍に入る道も可能という選択肢を彼らに与えようというもので、いわゆる “海軍はこんなに良いところだぞ〜” という宣伝目的でもあります。
実際のところ、当時の日本全国の青少年の周りでは、自身の親・親族を始めとして徴兵による陸軍の営内班を経験した者も多く、また配属将校など現役の陸軍軍人を見たり接したりする機会も多かったのに対して、海軍については、現役で帰省した者や、その現役を終えて帰郷した予備役、後備役の者などに接する機会は軍港・基地周辺や港町、漁師町などでも無い限り一般的には少なかったと言えます。
したがって、この 『海軍智識』 は体系的に整理された形での海軍についての一般的な知識のものであり、かつ海軍省自身の手になる公的な内容ですので、学校教育における中ではあるものの、将来的な徴兵あるいは職業選択としての知識欲旺盛な適齢期の青少年にとっては有益なものの一つでした。
とは言っても、昭和17年の3回目となる改訂増補版でも、海軍省が編纂したのは昭和15年1月のことであり、これを昭和17年1月30日に発行したものです。
このため、昭和17年の改訂増補版とは言いながら、内容的には昭和15年版と同様に、太平洋戦争前の平時におけるものであり、また当時の秘密に関することは網羅されていませんので、紹介される艦船・航空機や兵器・装備などについては少々古いものが多くなっております。
そして支那事変から太平洋戦争と続き、日本が戦時体制となってきたことから、この昭和17年版以降の改訂版が作られる機会は無かったものと考えられます。
申し上げましたように当該 『海軍智識』 は太平洋戦争開戦前の平時の日本海軍について述べられておりますので、太平洋戦争が始まって以降の戦時になってから、日本海軍は様々な面で変更が生起しております。
例えばその代表的な主要点を幾つかご紹介しますと、。
1.艦船、航空機、兵器などは一層急激な進歩を遂げており、それらの内容については含まれていません。
2.開戦に伴う海軍の戦時編成や特設艦船・部隊などについてももちろんその説明はありません。
3.日本海軍の階級制度、即ち士官・準士官・下士官の 「海軍武官官階」 及び兵の 「海軍兵職階」 が変わりました。 例えば、兵科のいわゆる水兵は一等〜四等水兵であったものが、昭和17年11月には水兵長、上等水兵、一等水兵及び二等水兵となりました。
4.前3.にも関連して、海軍の服装 (服制) が戦前に比べて大きく変わり、例えば下士官の軍帽前章、下士官兵の階級章、各科識別章、防暑服や略帽などです。そして陸戦服や略衣、昭和19年の 「臨時海軍第3種服装令」 による褐青色の背広型の服装などなどです。
なお、ご参考までに、今回のこの
『海軍智識』を補完するビジュアルなものをご紹介 しますと、
昭和9年5月に国防普及協会が編纂・出版した 『輝く海軍写真帖』 などは、新兵として海兵団教育部への入隊に始まる海軍一般について写真で紹介するもので、現在では国立国会図書館のディジタルコレクションでもその初版が (当然ながらいつも通り少々見ずらいですが) 公開されていますし、私の
本家サイトの次のところで、その第2版の全頁をPDFで公開 しています。
http://navgunschl2.sakura.ne.jp/photo/shining_navy/shining_navy.htmlまた、この 『海軍智識』 と同様なものとして、昭和6年に海軍省が青年訓練所(青年学校の前身)用として編纂して
帝国在郷軍人会本部が発行した 『海軍の常識』 というのがあり、内容や項立てなどはこの 『海軍智識』 とほぼ同一になっているものです。
この史料は現在ではアジア歴史資料センター (通称 「アジ歴」 ) で昭和11年の増補改訂版が公開されております (やはり少々見ずらいです) が、これも私の
本家サイトの次のところで、昭和6年の初版の全頁をPDFで公開 しています。
http://navgunschl2.sakura.ne.jp/tenji/55_IJN_Know_General_S06.html更には、この 『海軍智識』 の内容を一歩進めたものとしては、
海軍省教育局が大正9年に海軍部内向けの教育用教本として作成した 『海軍兵須知提要』 というのがあり、これは知り得る限りでは昭和19年まで改訂が続けられて出されており、いわば 「海軍下士官兵勤務必携」 的なもので、現役の海軍下士官兵が勤務において必要となる基本的な事項や各種の規則類についてその要約や抜粋などを収録したものです。
残念ながらこれは国立国会図書館のディジタルコレクションやアジ歴では現在のところまだ公開されていないようですが、現在でも海軍に興味がある方々にとっては、その基本的なことを知るための格好なテキストであるとも言えるものです。
もし 『海軍智識』 を読まれて、その次に進みたいと考える方がおられましたらお勧めの一つですので、これも私の
本家サイトの次のところで昭和15年版を公開 しておりますのでご参考にしてください。
http://navgunschl2.sakura.ne.jp/tenji/54_IJN_Seamen_Suchi_S15.html